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2009年10月10日土曜日

ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-(Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992 の紹介)


 ハーバード・ビジネス・スクール(HBS:Harvard Business School)といえば、ビジネス界のウェストポイント(West Point:米陸軍士官学校 US Military Academy)とも称される、ビジネス教育では最高峰の一つに位置する大学院である。

 授業が厳しいだけでなく、二年時への進級の際に必ず下位3%(?)の学生を退学させることから、その圧迫的な環境をして、ビジネス士官学校といわしめてきたのである。

 ケース・スタディ・メソッドをビジネス教育ではいち早く導入したことで、理論の講義中心のシカゴ大学とは対極にあるといわれてきた。

 ケース・スタディとは医学の症例研究や、法学の判例研究に該当するもので、ビジネス教育の場合ケースとは、ビジネス上の意志決定にかかわる事例を、短いものでは一枚、長いものでは30枚以上に及ぶものまである。

 最高意志決定者(CEO:Chief Executive Officer)が企業戦略全体にかかわるような大きなテーマから、システム部門などの一部門のマネージャーの意志決定にかかわるテーマまで多種多様な膨大なケースがこれまで作成され、HBSのアーカイブに保管されており、市販もされている。

 学生は授業で指定されたケースを事前に予習して問題点を明らかにし、自分自身が意志決定者であればいかなる意志決定を行うか、自習とグループディスカッションを踏まえた上で授業に臨むことになる。

 ケーススタディは学生の側も大変だが、教える側はさらに大変である。なぜなら、ケーススタディには解答は一つではないからだ。クラスをうまくマネージして、授業時間の終わりにはそれなりの結論が、学生自身から導き出されるようにしなければならない。教師の役割は、ソクラテスの産婆術に擬して語られることも多く、ケースメソッドは別名 Socratic method ともいわる。

 この教育メソッドのキモは、ビジネスでは唯一の解答というものはありえない、ということを学生に体得させることにある。世の中は複雑系なのであるから、スパっと一刀両断できるような事象など存在しない。

 ある特定の問題に対して一定の問題解決を行っても、必ず副作用ないしは反作用が発生する。もちろん、いわゆる定石なるものが存在しないわけではないが、定石にとらわれていたのではゲームに勝てないのは、囲碁や将棋を持ち出すまでもない。

 こうしたケースメソッド中心の教育を、実社会でのリーダーシップをとることになる人に行ってきたことに、米国の高等教育の優位性があるといえるだろう。この点においては、日本の高等教育はいうまでもなく、そのモデルとした欧州の高等教育よりも勝っていたことは確かである。

 その欧州では高等教育改革が現在進行中であることは、このブログでも以前に触れておいた。


米国のプロフェッショナル・スクール(専門大学院)

 ビジネス・スクールを含めて、こういった実学志向の大学院をさして、米国ではプロフェッショナル・スクール(professional school)という。

 先にも触れたように、プロフェッショナル・スクールとしては、医学や法学が先行して誕生した。ハーバードにおいても、メディカル・スクール(Medical School)、ロー・スクール(Law School)はそれぞれ歴史のある存在で、作家のマイケル・クライトンはメディカル・スクールの出身、このたびノーベル平和賞の受賞者となったバラク・オバマはロースクールの1991年卒業生である。

 なお、ハリウッド映画『ペーパー・チェイス』(The paper Chase)の原作者スコット・タローはロースクールの出身である。この映画は米国式ケースメソッド教育がどんなものか知りたい人は必見であるが、日本ではVHS版はあったのだがDVD版はでていないようだ。残念ながら、もうすでにレンタル・ビデオ店にはないだろう。米国版は入手可能である(・・リージョン・コントロールを解除すれば日本でも視聴可能)。



ディヴィニティ・スクールとは?
 
 ところが、こういったプロフェッショナル・スクールの中でも、もっとも歴史が長いのが、実はディヴィニティ・スクール(Divinity School)なのである。ディヴィニティ・スクールといっても日本人にはピンとこないだろうが、日本語でいえば、神学校にあたる(・・進学校ではありません、念のため)。

 日本でもカトリックなら上智大学神学部、プロテスタント系なら同志社大学神学部などが有名だが、米国の場合も同様にキリスト教の聖職者(・・カトリックなら司祭、プロテスタントは牧師、混同しないよう!)を養成するための学校なのである。

 ただ日本と違うのは、プロフェッショナル・スクールとして、あくまでも大学院(Graduate School)としての位置づけであって、大学学部(Undergraduate School)ではない。あくまでもプロの聖職者、すなわち宗教界におけるリーダーを養成することが、存在理由の第一にある。

 ハーバードに限らず、米国の大学はもともとプロテスタントの聖職者養成が建学の第一歩にある。

 これはイェール大学の場合も同じであり、こういった東部の名門大学は、いずれも米国独立よりも長い歴史をもち、欧州人にっとっての新天地である米国での宗教界のリーダーを養成してきた。米国が宗教国家である基礎を担ってきたいっても過言ではない。米国について考える際にきわめて重要なファクターである。

 日本語でプロフェッショナルとは何か、というテーマを扱った本には必ず書かれているはずだが、プロフェッションは動詞プロフェス(pro-fess)からきており、con-fess などと語根を共有し、もともと宗教的な意味合いが先にあり、信仰を告白する、というのが原義である。

 したがって、プロフェッショナルな職業従事者は、きわめて高い倫理的な姿勢が求められるのであり、医学、法学のみならず、ビジネスにおいても本来はいうまでもないことなのだ。こう考えると、プロフェッショナル・スクールの最初に神学大学院がくるのは当然のことであろう。
 
 ハーバード・ディヴィニティ・スクールHDS:Harvard Divinity School)自体は1816年の創立だが、神学教育自体は1636年の Harvard College 創設からの歴史をもち、実質的に最古のプロフェッショナル・スクールである。

 ハーバード・メディカル・スクールHMS:Harvard Medical School)は1782年、ハーバード・ロースクール(Harvard Law School)は1870年代の創設、そしてハーバード・ロー・スクール(HBS:Harvard Business School)は1908年創設である。

 ケネディ・スクールの名で有名な行政大学院は1936年の創設で、Harvard Kennedy School of Government が正式名称である。

 これらはみな大学院であり、全米各地のさまざまな学部の卒業生が入学することとなるが、学部であるハーバード・カレッジ(Harvard College)とは区別しなければならない。前者の大学院出身は職業上のエリートであるが、本当のエスタブリッシュメントはカレッジ卒業生であることに注意しておきたい。

 前大統領のジョージ・ブッシュ Jr. は米国大統領としては初のハーバード・ビジネススクール卒業生であるが(・・オバマもそうだが大半がロースクール卒業者か弁護士出身)、学部はイェール大学であり、こちらのほうが実ははるかに意味合いが大きいのである。しかもスカルズ&ボーンというフラタニティに属していたことも。

 高度な職業教育と教養教育(liberal arts education)は区分されている。 


ユダヤ系米国人の新聞記者によるハーバード・ディヴィニティ・スクール体験記

 ハーバード・ディヴィニティ・スクールについては、日本人卒業生はいるようだが、日本語で書かれた本は、たぶんないと思う。(注:付記に書いたが、日本の宗教学者が体験記を書いていることがあとからわかった)。

 今回紹介する Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992 は、1992年当時米国でベストセラーになっていたようで、ニューヨーク市内の新刊書店の店頭でみつけて購入したものである。M.B.A.の授業が完了してあとは卒業式に出席するだけとなっていたので、さっそく読んでみたら、これが実に面白い内容で、3日ほどで読了した。

 著者は、「ニューヨーク・タイムズ」の記者で宗教担当になった、正統派ユダヤ教徒(Orthodox Jewish)の男性である。新聞社から一年間の休暇をとってハーバード・ディヴィニティ・スクールに入学し、そこで体験した授業や生活を283ページの本にまとめたものだ。ハーバードに GOLD ではなく、GOD を探しにいったあるユダヤ人の体験記ということになるが、名字のなかにすでに GOLD が含まれるから、彼にはその必要はなかったのだろう。

 ハーバード・ディヴィニティ・スクールはもともとプロテスタントのキリスト教の聖職者を養成するための学校だったのだが、著者が入学した当時すでにキリスト教にこだわらず、幅広く宗教全般について研究し、宗教界のリーダーとして活躍する人たちに開かれたものとなっていたようだ。

 著者もここで、自分の宗教である正統派ユダヤ教だけでなく、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、イスラーム、アフリカの諸宗教を学び、自らの信仰を再考し、自らの信仰をさらに確固としたものにすることができたという。

 この文章を書くために amazon.com で本書を検索してみたら、まだまだ増刷されて現役の出版物であることに安心した。著者はその後、ユダヤ教徒の生活についてなどの本を出版しているようだ。

 本書のなかで面白かったは、米国でもハーバードを卒業したというと、ビジネス・スクールを卒業したと思い込む人が多いらしく、それはずいぶん給料も上がったでしょう、という反応が返ってくることが多かったという一節だ。

 米国でもディヴィニティ・スクールの知名度は、あまり高くないということなのだろう。その意味でも貴重な体験記であるといえるわけだ。

 参考までに目次を日本語で紹介しておこう。
 
イントロダクション
  1. オリエンテーション
  2. 最初の日々 
  3. 霊性 
  4. 原罪 
  5. 真理(Veritas) 
  6. ヒンドゥー教 
  7. 仏教 
  8. 安息日(サバト)のキャンドル 
  9. カトリック 
 10. 正統 
 11. ニューヨーク・タイムズとユダヤ教 
 12. その他のキリスト教諸派 
 13. 学生生活 
 14. リポーティング101 
 15. アフリカの諸宗教 
 16. イスラーム 
 17. 宗教界の女性 
 18. 新約聖書 
 19. 卒業 
 20. 卒業後

 新聞記者が宗教の世界に飛び込んで体験取材を行った例は、日本でも毎日新聞の故佐藤健記者がおり、『ルポ仏教-雲水になった新聞記者-』(佼成出版社、1986)から始まった仏教探求のルポは、高野山大学によるラダックでのチベット仏教調査への同行の記録のほか量産されている。この人の著作は1990年代にずいぶん読んだ。

 本書の著者 Ari Goldman(・・ちなみにヘブライ語で ari とはライオンのこと)の正統派ユダヤ教は、ユダヤ教のなかでももっとも保守的なもので、この立場にあった著者がデイヴィニティ・スクールで触れることになった世界のさまざまな宗教に対する驚きや知的好奇心が、ユーモアまじえた飾らない筆致で描かれた本書は、出版以来18年ものあいだロングセラーとして生きている本である。

 残念ながら日本語訳はないし、今後も翻訳されることもないだろうが、もし興味があれば、読んでみるといいと思う。

 9-11以降、米国における宗教状況も大幅に変化しているだろうが、こういう本がロングセラーとして読まれているということは、ユダヤ系市民以外にも読者がいるということで、米国もまだまだ"開かれた社会"であることを示しているのではないだろうか。





<付記>

 14歳で出家して、禅寺に20年間いたという異色の宗教学者・町田宗鳳(まちだ・そうほう)氏もハーヴァード・ディヴィニティ・スクールを卒業していることを知った。

 『文明の衝突を生きる-グローバリズムへの警鐘-』(町田宗鳳、法蔵館、2000)のなかで、自叙伝風にその当時の人生を振り返っている。34歳での米国での大学院生活がかなり過酷なものであったことが回想されている。 (2010年7月22日 記す)





<付記2> リンク先を最新情報に更新したほか、映画『ペーパーチェイス』のYouTubeを導入した(2021年1月21日 記す)。


<ブログ内関連記事>

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)
・・ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のエグゼクティブ向け授業(AMP)

書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」 (片岡義男)
                                      
映画 『ソーシャル・ネットワーク』 を日本公開初日(2011年1月15日)の初回に見てきた

ヨーロッパの大学改革-標準化を武器に頭脳争奪戦に

『はじめての宗教論 右巻・左巻』(佐藤優、NHK出版、2009・2011)を読む-「見えない世界」をキチンと認識することが絶対に必要
・・同志社大学神学部卒という異色の外交官出身の作家による宗教論

書評 『聖書を語る-宗教は震災後の日本を救えるか-』(中村うさぎ/ 佐藤優、文藝春秋、2011)-キリスト教の立場からみたポスト「3-11」論

『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える

書評 『ユダヤ人エグゼクティブ「魂の朝礼」-たった5分で生き方が変わる!-』(アラン・ルーリー、峯村利哉訳、徳間書店、2010)

書評 『法然・愚に還る喜び-死を超えて生きる-』(町田宗鳳、NHKブックス、2010)

書評 『仏教入門 法然の「ゆるし」 (とんぼの本)』(梅原猛 / 町田宗鳳、新潮社、2011)


PS. 読みやすくするために本文の改行を増やし、小見出しをあらたに付け加え、その後に執筆した「ブログ内関連記事」の項目も付け加えた。ただし、本文の文章にはいっさい手を入れていない(2013年6月17日 記す)。



 
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