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2010年2月27日土曜日

コトバのチカラ-『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える-』(木村元彦、集英社インターナショナル、2005)より




いまさらあえて私が付け加えることはないと思いながらも、あえてこの『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える-』(木村元彦、集英社インターナショナル、2005)の紹介を書くのは、この本の内容がノンフィクションとして素晴らしいことはいうまでもないが、なんといってもイビツァ・オシム(1941-)という一人の男の人生からにじみでるコトバ、人生哲学が凝縮したコトバ、コトバというものに対するオシムの考え方について、深く感じ入ることが多いためだ。

 オシムが日本代表監督に就任した際に購入したこの単行本、買ってからすでに4年以上たっている。その間、脳梗塞で倒れて生死の境をさまよったのち、奇跡的に生還するということもあった。この監督のもとで日本代表チームがワールドカップにいくものだと思っていたのに・・・

 オシムがコトバについて敏感な理由は、ユーゴスラビア代表監督時代の1992年、ユーゴ解体時の悲惨な内戦を経験しているからである。

 多民族国家ユーゴスラビアから実力本意で代表選手を選出したオシムには、各民族のナショナリストからの圧力が凄まじかったらしい。この経験から次のようなコトバがクチにされることになる。

言葉はきわめて重要だ。そして銃器のように危険でもある。私は記者を観察している。このメディアは正しいのか。ジェフを応援しているのか。そうではないのか。新聞記者は戦争を始めることができる。意図をもてば世の中を危険な方向に導くことができるのだから。ユーゴ戦争だってそこから始まった部分がある(P.38)。

実は発言に気をつけていることがある。いまの世の中、真実そのものをいうことは往々にして危険だ。サッカーも政治も日常生活も、世の真実には辛いことが多すぎる。だから真実に近いこと、大体真実であろうことをいうようにしているのだ(P.38)


 大学で数学を専攻し、論理的思考能力にたけていたイビツァ・オシムは、親の希望で大学教授か医学の道に進むことを期待されていた。しかし彼は、親の思いを振り切って、あえてプロサッカー選手という、きわめてリスクに満ちた人生を選んだ男だ

 サッカーにおいても、あえてリスクを取って攻めるサッカーを選択し、世界的に名の通ったクラブチームからオファーがあっても断り、日本のJリーグの、しかも弱小チームであったジェフ千葉を選んだ男でもある。

 「本当に他人の評価や、メディアの賞賛に興味がない、反俗的な本質追究の人」と著者の木村氏が単行本あとがきで評しているが、私はこれに付け加えて、オシムの人生哲学は、「リスクを取ること」こそが、もっとも「リスキーではない」人生であることを示している、といっておきたい。


 日本人選手に対する苦言をまず読んで欲しい。私も含めて、大いに反省したい内容だ。

日本人は平均的な地位、中間に甘んじるきらいがある。野心に欠ける。これは危険なメンタリティーだ。受け身過ぎる。(精神的に)周囲に左右されることが多い。フットボールの世界ではもっと批判に強くならなければ(P.37)


 モチベーションの上げ方についての姿勢とコトバもまた傾聴に値する。オシムは心理学者でもある。内発的動機を何よりも重視している。

特定の法則があるわけではないから、どういう方法とは一概にいえない。常に考えているのは、選手たちの「勝ちたい」、「克ちたい」という強い気持ちを、目覚めさせることなんだ(P.126)

モチベーションを高める方法なんて何千通りもある。それぞれ違うのだ。・・(中略)・・試合の前とかにはほとんんど戦術の話はしない。モチベーションを上げるのに大事だと思っているのは、選手が自分たちで物事を考えようとするのを助けてやることだ。自分たちが何をやるのか、どう戦うのかを考えやすくしてやる。・・(中略)・・まずは自分たちのために、自分のやれることをやり切るということが大事だという話をする。次に、対戦相手が自分たちと試合するに当たって何を考えて臨んでいるかということを思考させる、そういう話をする(P.182-183)


 とにかく自分で考えること」が重要だ。

同時にサッカーにおいて最も大切なものもアイデアだ。アイデアのない人間もサッカーはできるが、サッカー選手にはなれない。でもアイデアは練習だけでは身につかない。鍛えられない。バルカン半島からテクニックに優れた選手が多く出たのは、生活の中でアイデアを見つける、答えを出していくという環境に鍛えこまれたからだろう。さらにいえば、ある選手が、そういったアイデアを身につけているかどうかは、サッカーのプレーを見なくても、普段の言動をみていれば予想できる(P.43)


 そして考えたことを着実に実行するために、つねに準備を怠らないこと、そのために身体技術の基礎である走り込みを選手に求めている。これは有名な語録だが、あえて再録しておこう。

ライオンに追われたウサギが逃げ出すときに、肉離れをしますか? 要は、準備が足りないのです(P.28)

 
 戦術については知り尽くしていながら、けっして戦術に頼らない采配

サッカーとは戦術が一番だと思っている監督がいるかもしれない。しかし私はムービングこそが、最も重要だと思っている」(P.122)

トレーニング方法でいえば、教師がこういうメニューがある、と黒板に書いた段階ですでに過去のものになっている。練習メニューというものはそれだけ毎日進化し、変化するものだと私は思っている」(P.48)


 カネにまかせて最強選手をスカウトして集めたところで、最強のチームになるわけではない。

 これはサッカーでも、企業組織でも同じことだ。経営学のコトバを使えば、「リソース(資源)ベースの戦略」というやつだ。人的資源、すなわちいまいる選手のチカラをいかに引き出して最強のチームを作り出すかが重要なのだ。オシムはそれをジェフユナイテッド市原(・・現在のジェフ千葉)でやってのけた。

ジダンやベッカムやロナウドやいろんな人間を集めても、じゃあ彼らのために誰が走るんだ?(P.120)

システムはもっとできる選手から自由を奪う。システムが選手を作るんじゃなくて、選手がシステムを作っていくべきだと考えている。チームでこのシステムをしたいと考えて当てはめる。でもできる選手がいない。じゃあ、外から買ってくるというのは本末転倒だ。チームが一番効率よく力が発揮できるシステムを選手自身が探していくべきだ(P.121)

年俸の差にかかわらず、選手は全員同じ選手なのだから、皆、対等に平等に接するのが普通だろう。大体、選手の中で自然とランクやキャラクター分けがされるものだ。・・(中略)・・平等に見るということは自分をフラットにするということでもある。もちろん監督だって完璧じゃない。そのことを自覚した上で選手を見ている(P.206)



 そして選手に対しては、何よりも自分で考えることを求める。そのためには失敗を恐れず、リスクをとって果敢にチャレンジしていくことだ。

懲罰ではなく考えさせること(P.207)

ミスをした選手を使わないと、彼らは怖がってリスクを冒さないようになってしまう(P.208)


 このほかにも、この本のなかで紹介されたコトバは多い。いくつか抜き書きしておこう。

日常生活の中で、平坦な道のりはない。上に上がっていくには何らかの危険を冒し、何かを犠牲にしなければんらないのだ(P.148)

「父は哲学があって、どこでも結果よりもビジョンを重視してチームを作るんだ」(P.156) これは、同じくサッカー選手となった息子のコトバ。

夢ばかり見て後で現実に打ちのめされるより、現実を見据え、現実を徐々に良くしていくことを考えるべきだろう(P.185)

大事なのは言葉ではなく、自分でその意味を感じているか。前にも話したが、時として何も言わないほうが、100万言を費やすよりも伝わる場合がある(P.207)


 学び続けること、現状に満足せず常に進化していくこと、それこそがオシムのサッカー哲学であり、人生哲学なのである。

 けっしてコトバを惜しむ(オシム)ことなく・・・



<参考サイト>

オシム監督語録』 (ジェフ千葉)


P.S. 文庫化について

 2008年には文庫版が出版されているようだ。文庫版にあたってあらたに一章が書き加えられているらしい。文庫版はみていないのでなんともいえないのだが・・





PS2 文春文庫から「増補改訂版」が出版

文春文庫から『オシムの言葉 増補改訂版』として刊行。

文藝春秋社の書籍サイトから「立ち読み」できる。

(2014年1月4日 記す)





<ブログ内関連記事>

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「サッカー日本代表チーム」を「プロジェクト・チーム」として考えてみる




(2012年7月3日発売の拙著です)







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