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2010年3月7日日曜日

書評『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)-「西欧主導のグローバリゼーション」の「最初の500年」を振り返り、未来を考察するために




「西欧主導のグローバリゼーション」の「最初の500年」を振り返り、未来を考察するために

 本書のタイトルである『1492』年とは、ジェノヴァ人コロンブスが黄金の国ジパングを求めてスペインから出航し、「意図せざる結果」としてアメリカ大陸に到達した年として一般には記憶されているだろう。

 『1492』年は一方、コロンブスの出航に先行してスペインでは、グラナダ陥落によってイスラーム王朝を滅亡させ、その勢いでユダヤ人を追放した年でもある。

 この二つの出来事が発生した『1492』年こそ、「西欧主導のグローバリゼーション」が事実上始まったといってよいのであり、そしてこの二つの出来事はその後「500年の歴史」の幕開けとして、象徴的な出来事でもあったのだ。

 もちろん、これは『1492』年の時点では誰にもわからなかったことである。「第Ⅲ部歴史を捏造する」の冒頭で、ユダヤ神秘主義カバラの中心書『ゾーハル』を引用して著者が述べているように、「過去は唯一それに意味を与える未来によってしか理解されえない」からだ。

 著者は、ユダヤ史においては「1940年代前半のホロコースト」にも匹敵するインパクトをもった「1492年スペインからのユダヤ人追放」と、コロンブスによるアメリカ大陸「発見」とその後の徹底的な収奪に共通する、「純化」というロジックを掴みだして読者に提示してみせることにより、『1492』年のもつ意味を、ヨーロッパ中心の世界史のなかに位置づけている。

 本書は、年代記風の記述である「第Ⅱ部1492年」を真ん中にもってきて、『1492』年が西欧による世界支配が開始された分水嶺ともなる年であったことを、読者に時系列で同時代体験をさせるという面白い試みをしている。

 この第Ⅱ部に先立つ「第Ⅰ部 ヨーロッパを捏造する」では、『1492』年を用意した西欧のパワー勃興の内発的発展のメカニズムを詳述、最終章の「第Ⅲ部 歴史を捏造する」では、『1492』年以降の欧州パワーが、地中海から大西洋にシフトし、「グローバリズム」の波を主導して全世界を覆い尽くしていく姿を、功罪両面を踏まえて描き出す。

 著ジャック・アタリは、欧州を代表する知性として多数の著作をもつ思想家の顔だけでなく、ミッテラン大統領の顧問をつとめ、冷戦構造崩壊後は欧州復興開発銀行の初代総裁も歴任した、フランスのみならず、欧州のトップエリートである。

 そういう存在でありながら、欧州そのものを相対化できる視点をもっているのは、フランス本国の出身ではなく、地中海をはさんで対岸の植民地アルジェリアで、香水や宝石を扱うユダヤ人商人の家庭に生まれた人であることと無縁ではあるまい。アタリ家が『1492』年にスペインから追放されたスファルディム系ユダヤ人かどうかは、本人が何も言及していないので正確なところはわからないが、自らの出自をも含めて、いっさいすべてを相対的かつ客観的な視点で突き放して見つめることのできる知性が、『1492』年以降の歴史をオモテとウラの合わせ鏡として認識する本書を書かしめたといってよいのではないだろうか。 


本書が、1992年の「コロンブス500年祭」に合わせた出版であったにもかかわらず、欧州が主導したグローバリゼーション時代を相対化し、批判的に描き出している。

 この1992年は、前年12月のソ連の崩壊により冷戦構造が終結、アメリカ一極支配が確立した年でもある。『1492』年の意味が同時代的にはわからなかったように、1991年の意味も本書出版時点では、まだ意味が確定できていなかったかもしれない。

 「海から海へと移動し、他者の追放の上に自らを構築し、純潔を追い求め、自らの残虐行為を忘れ、地上の楽園の名において人類を破壊」してきた「西欧による500年の覇権」。この表現は、そのまま米国の歴史にもあてはまるだろう。米国は西欧文明の直接の継承者であり、これは本書出版後の2001年の「9・11テロ」で顕在化し、誰の目にも明らかになったことである。

 この本を2010年以降に読む意味は、「1992年に終わった500年」の「次の500年?」の最初の20年が終わった時点から見て、未来に向けて思考するためのさまざまなヒントを得ることができることにある。

 日本語訳文庫版のカバーは、原書フランス語文庫版とまったく同じで、ベーハイムの地球儀を使用している。このカバー写真の意味をじっくり考えるべきであろう。そしてこの地球儀を右に回すと現れてくるものは・・・

 全体にカタカナ表記の固有名詞が多くて、ややペダンティック過ぎるのではと思われるくらいだが、歴史を動かす原動力が個々の政治家や個人であるよりも、15世紀欧州の原動力となったのが、総体としての「商人たち」、「数学者たち」、「外交官たち」、「芸術家たち」、「探検家たち」であったことを考えれば、固有名詞の大半を読み飛ばして記憶に残らなくても、とくに論旨には大きな問題はないだろう。

 その意味では詳細な固有名詞索引よりも、「商人」や「ジェノヴァ人」、「マラーノ」、「インディオ」といったキータームの索引が欲しかったところだ。原書の索引をそのまま日本語に移しているだけなのは、ないよりましではあるが、あまり芸があるとはいえないのではないか。

 「ヨーロッパ500年の覇権」が終焉した現在も、「西欧文明の延長線上にあるアメリカ文明」は、1492年以降の最初の100年間の西欧にも似て、いまだ荒々しい姿を隠そうともしない

 500年後、『1991』という本はどのように書かれることになるのだろうか? そんなことも考えてみたくなる本である。


<初出情報>

■bk1書評「「西欧主導のグローバリゼーション」の「最初の500年」を振り返り、未来を考察するために」投稿掲載(2002年3月6日)

*再録にあたって、字句の一部を修正した。



          


<ブログ参考記事>

書評『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む


『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)という本の活用法について

書評『エリートの条件-世界の学校・教育最新事情-』(河添恵子、学研新書、2009) ・・フランスのエリート教育にも触れている

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)・・ユダヤ人に天才的頭脳が生まれる理由


ジャック・アタリの著作

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!


新大陸への侵略と略奪

映画  『アバター』(AVATAR)は、技術面のアカデミー賞3部門受賞だけでいいのだろうか?
・・異星人である「アバター」は、「新大陸」における「インディオ」のメタファーであろう

書評 『現代世界と人類学-第三のユマニスムを求めて-』(レヴィ=ストロース、川田順造・渡辺公三訳、サイマル出版会、1986)-人類学的思考に現代がかかえる問題を解決するヒントを探る

書評 『幻の帝国-南米イエズス会士の夢と挫折-』(伊藤滋子、同成社、2001)-日本人の認識の空白地帯となっている17世紀と18世紀のイエズス会の動きを知る

(2014年7月28日 情報追加)



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