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2010年3月3日水曜日

書評『民間防衛 ー あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)ー 家庭に一冊は常備すべき「防災と防衛のバイブル」




家庭に一冊は常備すべき「防災と防衛のバイブル」。最悪の事態をシミュレーションし、国民の一人一人に心の準備を迫る本

 スイス連邦政府が1969年にスイスの全家庭に配布した『民間防衛』

 この赤い表紙の一冊本は、1970年にはじめて日本語版が登場したが、同じ時代の文化大革命時代の中国で一世を風靡した、同じく赤い表紙の『毛沢東語録』よりもはるかに重要でかつ生命力の長い、まさに家庭に一冊は常備すべき防災と防衛のバイブルであるといえよう。

 私が本書を初めて手にとって購入した15年前の1995年、それは「阪神大震災」に続いてオウム真理教による「サリン事件」が発生し、日本人の治安に対する不安と危機意識が一気に高まった年であった。

 「冷戦構造崩壊による平和の配当」などという脳天気なユーフォリアが一気に吹っ飛んだ年である。阪神大震災後の1995年2月に「新装版」として出版された本書は、続いて発生した「サリン事件」ともあいまって、大型書店には山積みとなっていたのである。

 その後、「ノドもと過ぎたら熱さを忘れ」がちな日本人から危機意識が消えてしまったのだろうか、書店の店頭からは消えて、しばらく品切れになっていた。、再び2003年に「新装版」がでたあとは、とぎれることなく売れ続けているようだ。本書の愛読者としては、たいへんうれしい限りである。

 スイスで本書が配布された1969年という年は、「中立国スイス」が、冷戦構造のもと、米ソいずれの陣営にも属さず、中立国としていかに自由と独立を守り抜くかという、国家の存在そのものにかかわる危機意識の高まっていた時代であった。

 国土防衛は徴兵された軍人だけでなく、国民全体の義務であるという意識がそれを支えている。そして、『軍人操典』と『民間防衛』が編集され、各家庭に配布された。

 構成は以下のようになっている。「平和」「戦争の危険」「戦争」「レジスタンス」(抵抗活動)「知識のしおり」

 全体の3分の1強を占める「平和」の章では、核兵器や生物化学兵器といった人為的なものも含めた災害全般への対応をことこまかに詳述している。日本でも防災関係者ではすでに常識となっているそうだ。この意味においてはきわめて実用的だ。

 私には、むしろ「戦争の危険」、「戦争」、「レジスタンス」(抵抗活動)の3章が非常に興味深い。

 外敵によって国土が占領されるといかなる状況がもたらされるかだけでなく、「心理戦」(謀略・宣伝工作)や「経済的戦争」といった目に「見えない戦争」を含めて全面戦争についても、最悪の事態を想定し、考え得る限りの状況を書き込んでいるからだ。

 いわばシミュレーションによって、国民一人一人に「全面防衛」について心の準備をさせるのが目的であるが、何かに取り組めば徹底的にやらなければ気が済まないというスイス的な特性が全面に展開されている。

 沖縄を除けば、原爆を含めて都市への無差別爆撃以外には、地上戦による国土蹂躙(じゅうりん)を経験したことのない本土出身の人間にとって、外敵によって侵略され占領されるということはどういうことか、これについてイマジネーションを働かせるための、またとない訓練教材となっている。

 しばしば「陸の孤島」ともいわれる山岳国家スイスであるが、海によって国土を囲まれている日本とは環境がまったく異なる。スイスの地政学的な位置は、ヨーロッパ大陸の中心に位置し、ローマ帝国時代以来、地中海と大西洋を結ぶ陸上交通の要衝であり、「スイスの戦略的地位は他国にとって誘惑的なものである」という認識が本書にあるとおりだ。

 しかし、ナポレオン戦争の4年間を除いて以後、スイスは他国に侵略され占領されたことはない。これは、自由と独立を守るために払ってきた、スイス国民の覚悟の現れともいえるのだろう。同じく専守防衛の立場に立つ戦後日本だが、意識の違いはあまりにも大きい。

 元警察庁長官でスイス大使を歴任した國松孝次氏が、その著書『スイス探訪』(2003年)で書いているように、環境の変化によって、スイスの安全保障体制も大幅に再編されているらしいが、原典としての『民間防衛』意識には変化はないようだ。

 この本はイラストも含めて、なんだかレトロな雰囲気を全編にかもしだしており、歴史的ドキュメントとしては意味があるが、やはりアップデート版がもしあるのなら見てみたい、という気持ちも強い。

 出版社には、「新装版」ではなく、「新版」をだしてほしいものだ。スイス本国で新版がでているのかどうかは知らないのだが。

 いずれにせよ、家庭に一冊は常備すべき「防災と防衛のバイブル」である。そしてまた、自由と独立をまもるための、「民主主義国家の国民教科書」でもある。


<初出情報>

■bk1書評「家庭に一冊は常備すべき「防災と防衛のバイブル」。最悪の事態をシミュレーションし、国民の一人一人に心の準備を迫る本」投稿掲載(2010年3月3日)

*再録にあたって字句の一部を修正した。





<書評への付記> 陸続きの大陸欧州におけるセキュリティ意識

 スイスといえば、この本を取り上げないわけにはいかないだろう。

 日本のように周囲を海で囲まれた島国にとっての戦争と、スイスもそうであるが、陸続きで敵が攻めてくる大陸国家とでは、そもそも国民の戦争に対する意識が根本的に異なるのは当然だ。

 宰相・吉田茂の長男で、英国のケンブリッジ大学への留学経験のある作家・吉田健一『ヨオロッパの人間』(新潮社、1973)で以下のように書いている。

戦争は近親のものに別れて戦場に赴くとか原子爆弾で何十萬もの人間が一時に、或は漸次に死ぬとかいふことではない。それは宣戦布告が行はれればいつ敵が自分の門前に現れるか解らず、又そのことを当然のこととして自分の国とその文明が亡びることもその覚悟のうちに含まれることになる」(P.220)

 陸続きの大陸では「自分の門前」まで敵が攻めてくることは、ヨーロッパ大陸に限っても、第一次世界大戦や第二次世界大戦だけでなく、1956年のハンガリー革命(・・いわゆるハンガリー動乱でも、1968年のチェコ事件(・・いわゆる「プラハの春」)でも、1991年から始まったユーゴスラヴィア解体でもヨーロッパは経験している。

 ハンガリーの首都ブダペストでは、1956年当時のソ連軍との激しい攻防戦の痕跡は、市内の石造の建物にはいまだに銃弾の痕が残っていることで知ることができる。ユーゴの場合はなおさらだろう。

 このような状況において、スイスがスウェーデンとともに、ナポレオン戦争終了後、約200年にわたって「中立」を守り続けていることは、並大抵のことではないことを知らねばならないのである。

 もちろん、『黒いスイス』(福原直樹、新潮新書、2004)で日本人ジャーナリストが暴いているように、スイスが中立を維持するために、第二次大戦ではナチス・ドイツとのあいだに取り結んだ微妙な関係や、激化する冷戦時代の核兵器開発(・・1986年に正式に断念)など、どんな国にもキレイ事では済まない暗部というものはあるものだ。当然のことながら、日本も例外ではない。

 さすがに現在の日本では、「非武装中立」などという戯言(たわごと)をクチにする者もいなくなったが、まだまだ国民全体に覚悟が足りないようだ。基地の多くを沖縄に押しつけておいて、自分たちのことは"ほっかむり"している多くの日本国民のエゴにはあきれるばかりだ。

 私が現在住んでいる千葉県の場合、陸海空の自衛隊基地も多く、離発着訓練を行う自衛隊機の騒音問題も含めて、国民として応分の負担はしているつもりなので、あえてこのようにいわせていただく。国防は防衛省と自衛隊だけの問題ではなく、国民全体の問題だと考えているからだ。

 これがスイスから学べき教訓であるが、しかし日本人は「熱しやすく冷めやすい」からねえ・・・何か事件が起こると急に防衛意識が目覚めるが、マスコミでの報道がなくなると、一気に熱が冷めてしまう。

 この問題については、書評『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009)もあわせてご覧いただきたい。

 日本の海上の防衛線の長さは、スイスの比ではないのである。このことについての、日本人は認識には多いに欠けるものがあるのではないだろうか。陸続きではないので、そのまま戦車が踏み込んでくることはないからといって、安心すべきではないのである。

 参考のために、『民間防衛』の総目次を掲載しておこう。何かの参考になるかもしれない。


<目次>

まえがき
平和
 われわれは危険な状態にあるのだろうか
 深く考えてみると
 祖国
 国の自由と国民それぞれの自由
 国家がうまく機能するために
 良心の自由
 理想と現実
 受諾できない解決方法
 自由に決定すること
 将来のことはわからない
 全面戦争には全面防衛を
 国土の防衛と女性
 予備品の保存
 民間防災の組織
 避難所
 民間防災体制における連絡
 警報部隊
 核兵器
 生物兵器
 化学兵器
 堰堤(えんてい)の破壊(注:ダムや堤防のこと)
 緊急持ち出し品
 被災者の救援
 消化活動
 救助活動
 救護班と応急手当
 心理的な国土防衛

戦争の危険
 燃料の統制、配給
 民間防災合同演習
 心理的な国土防衛
 食料の割当、配給
 地域防衛隊と軍事経済
 軍隊の部分的動員
 全面動員
 連邦内閣に与えられた大権
 徴発
 沈黙すべきことを知る
 民間自警団の配備
 妨害工作とスパイ
 死刑
 配給
 頑張ること
 原爆による隣国の脅迫
 放射能に対する防護
 被監禁者と亡命者
 危険が差し迫っている
 警戒を倍加せよ
 防衛

戦争 
 奇襲
 国防軍と民間防災組織の活動開始
 戦時国際法
 最後まで頑張る
 用心
 戦いか、死か

戦争のもう一つの様相
 敵は同調者を求めている
 外国の宣伝の力
 経済的戦争
 革命闘争の道具
 革命闘争の目標
 破壊活動
 政治生活の混乱
 テロ・クーデター・外国の介入

レジスタンス(抵抗活動)
 抵抗の権利
 占領
 抵抗活動の組織化
 消極的抵抗
 人々の権利
 無益な怒り
 宣伝と精神的抵抗
 解放のための秘密の戦い
 解放のための公然たる闘い
 解放

知識のしおり
 避難所の装備
 医療衛生用品
 救急用カバン
 2週間分の必要物資
 2ヶ月分の必要物資
 だれが協力するか? どこで?

訳者あとがき


PS 読みやすくするために改行を増やした。また<ブログ内関連記事>を加えた。 (2014年1月24日)


<関連サイト>

「スイス民間防衛」日本で売れ続ける理由(Swissinfo.ch 2019年10月25日)
・・「冷戦期、スイス連邦政府は有事の際の備えを説いたハンドブック「民間防衛」を各家庭に配った。今や歴史の遺物と化し、存在すら忘れられたこの冊子が、意外な場所で売れ続けている。それは日本だ。」

「民間防衛」時代を間違えた危機管理マニュアル(Swissinfo.ch 2019年10月25日)
・・「有事に備える危機管理マニュアル「民間防衛」がスイスの全家庭に配られたのは、今から50年前。冷戦時の反共産主義を機に生まれたハンドブックは、一部国民の激しい怒りを呼んだ。1969年に出版された当時、スイス社会はすでに劇的に変化していたからだ。」

(2019年10月28日 項目新設)

         
<ブログ内関連記事>

「小国」スイスは「小国」日本のモデルとなりうるか?-スイスについて考えるために

1980年代に出版された、日本女性の手になる二冊の「スイス本」・・・犬養道子の『私のスイス』 と 八木あき子の 『二十世紀の迷信 理想国家スイス』・・・を振り返っておこう

書評  『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)
・・ビジネスパーソンにとっては「ブランド王国スイス」という捉え方が面白い

書評 『マネーの公理-スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール-』(マックス・ギュンター、マックス・ギュンター、林 康史=監訳、石川由美子訳、日経BP社、2005)
・・「マネーの防衛」というのがスイス流の投機。セキュリティの観点から投資と投機を考える

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)
・・とはいえ、スイスも曲がり角にきていることが、スイス大使として赴任した國松元警視庁長官のやわらかな筆致で描かれている

「急がば回れ」-スイスをよりよく知るためには、地理的条件を踏まえたうえで歴史を知ることが何よりも重要だ
・・欧州の「陸の孤島」とも形容されるスイス、まずは地形を知り、歴史を知るのが「急がば回れ」となる

ハンガリー難民であった、スイスのフランス語作家アゴタ・クリストフのこと

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる

(2014年9月26日 情報追加)


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