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2011年2月27日日曜日

映画 『英国王のスピーチ』(The King's Speech) を見て思う、人の上に立つ人の責任と重圧、そしてありのままの現実を受け入れる勇気


   
 映画 『英国王のスピーチ』(The King's Speech)を、日本公開初日の2011年2月26日に見てきた。

 今年のアカデミー賞の有力候補として、『ソーシャル・ネットワーク』と激しく競り合っているということだけでも、見る気をそそられる。

 もちろん、それだけが理由ではない。

 この映画もまた、過去の焼き直しのリメイク作品ではなく、実話(true story)にもとづいたオリジナルな脚本をもとにした作品であるからだ。しかもハリウッド映画ではなく、英国王室を描いたヒューマン・ドラマである。

●監督:トム・フーパー
●脚本:デヴィッド・サイドラー
●主演:コリン・ファース(・・ジョージ六世)
 ヘレナ・ボナム=カーター(・・エリザベス妃)
 ジェフリー・ラッシュ(・・ライオネル・ローグ)
●製作:英国、オーストラリア
●上映時間:111分

 英国王ジョージ六世は、実は吃音症(どもり)だった。これは実に衝撃的な事実である。一国の国王が、しかも大英帝国(!)の皇帝を兼ねていたジョージ六世、さらに現エリザベス二世女王の父親にあたる。まったく過ぎ去った過去とも言いきれない、近過去の物語なのだ。

 この事実は本来なら、英語でいう skeleton in the cupboard のままだったはずであろう。日本語でいえば「家族の秘密」。サマセット・モームの小説のタイトルにもなっている。Cakes and Ale: Or the Skeleton in the Cupboard(お菓子とビール)。
 
 エリザベス女王が即位したのは1952年、ものごころついてからずっとエリザベス女王である私のような世代の人間にとっては、ジョージ六世といっても歴史上の人物に過ぎない。英国はさておき、日本の歴史の教科書に登場するような人物ではない。

 英国の英語を Queen's English ということに疑問をもったこともないし、なんとってもイアン・フレミング原作の「007シリーズ」には『女王陛下の007』という作品もある。

 ジョージ六世だが、過去の人とはいえ、英国史においてはきわめて大きな存在であったようだ。

 この映画で扱われるのは、1925年から1934年に即位するまでの約10年間。第一次世界大戦から復興しつつあった矢先の欧州大陸では、ドイツのヒトラーが台頭し再び戦争の危険が高まっていた。大陸国ではない英国にとっても、それは対岸の火事ではなかったのだ。

 ジョージ六世には兄がいた。父王ジョージ五世の死去にともない、兄が王位継承しエドワード八世として即位する。しかし、歴史上有名なシンプソン夫人との「王冠を賭けた恋」によってエドワード八世は退位、予期せぬことに王位につかざることを余儀なくされたのだ。



人のうえに立つ人は、パブリック・スピーチが求められる。英国をはじめとする西洋世界においては、とくにコトバ、それも発話されたコトバのもつ重要性がきわめて高い

 人のうえに立つひとはスピーチをしなければならない。しかも、一国の国王である。いや、その当時の英国はまだ大英帝国(British Empire)の盟主であった。英国王は大英帝国の皇帝も兼ねていたのだ。

 英国の全国民だけでなく、7つの海にまたがっていた大英帝国のすべての臣民(subject)にむけてメッセージを発しなくてはならないのである。しかも、その当時のニューメディアであるラジオを通じて。

 その責任たるや、平民(common people)である私のような人間には想像のしようもない。

 「君臨すれども統治せず」というのが、王政復古以降の英国国王のポジションにかんする立憲君主制(constitutional monarchy)の原則である。

 実際の政治は、選挙に選出された政権党の代表が首相となって行うが、国家元首として君臨するのは国王である。国王は国民統合のシンボルとして、とくに大きな艱難に直面したときの求心力としての機能が強く求められる。

 とくに大衆時代となってからは、ラジオというその当時のニュー・メディアの発達とともに、国王を中心とする王室もいやおうにかかわらず対応していかなくてはならないのであった。新聞、ラジオ、テレビ、そしてインターネット。現在の英国王室は、YouTube に The Royal Channel という自らのチャンネルをもつに至っている。

 「地位が人をつくる」という。これは国王もまた同じだ。フランク・シナトラが歌う『Love Is a Many-Splendored Thing』(日本語タイトルは『慕情』) には、The golden crown that makes a man a king. (人をして王にする黄金の王冠)というフレーズがあるが、まさにそのとおりなのだ。

 果たしてジョージ六世として即位した新国王は、国民に語りかけるスピーチを無事に終えることができたのか?

 これは映画を見てからのお楽しみということにしておこう。


認めたく現実を、ありのままの事実として受容する勇気

 この映画を見ているうちに、オードリ-・ヘップバーン主演の『マイ・フェア・レディ』を思い出した。下町言葉を上流階級のものに矯正する教師と生徒の物語である。原作は、英国の劇作家ジョージ・バーナード・ショーの『ピュグマリオン』、ギリシア神話の人造人間ものをベースにした戯曲だ。

 主人公イライザは下町言葉を矯正されて上流階級にデビューするに至る。
 『英国王のスピーチ』では、オーストタラリア出身の言語聴覚士ライオネル・ローグが、未来のジョージ六世となるヨーク公を指導することになる。

 映画のテーマはむしろこの言語聴覚士との関係において、「否認 ⇒ 怒り ⇒取引 ⇒ 抑うつ ⇒受容」という一連のプロセスを描いたヒューマン・ドラマが主要なテーマであるといっていだろう。

 これは、終末期を専門にした精神科医エリザベス・キューブラー=ロスが『死ぬ瞬間』(On Death and Dying)で示した「死ぬということを受容するプロセス」からきているが、「死にゆく」という、人間にとってもっと厳粛でかつ避けることのできない「事実」を受け入れるまでの心理プロセスを、膨大な観察から導きだした結論である。

 未来のジョージ六世となるヨーク公もまた、ほぼ同じプロセスを経て、始まりは教師とクライアントの関係だった言語聴覚士ローグとの葛藤に満ちた関係を、最終的には友情にまで高めていくことになる。


吃音症と言語聴覚士、英国の英語について

 吃音(どもり)は英語でスタマー(stammer)という。ちなみにこの映画にも出てくるチャーチルも、自分が吃音症だったことを映画のなかで告白している。

 言語聴覚士ローグがオーストラリア出身という設定も面白い。これは事実に基づいたものであるが、大英帝国の一員であったオーストラリアとニュージーランドからは第一次大戦には大量に動員されている。ローグもまたその一人であったようだが、出征兵士の犠牲的な活躍は、オーストラリアでは ANZAC Day(アンザック・デイ)として記念されている。

 ローグが医師免許もなしに言語聴覚士(スピーチ・セラピスト:speech therapist)という仕事を始めたのは、戦争の後遺症でしゃべれなくなった元兵士を多く見て、その治療に携わることがキッカケであったようだ。

 映画のなかで、ヨーク公からはさんざんオーストラリア英語だといってからかわれるが、映画のなかではその要素はだいぶ薄めているように思われた。私も生まれてはじめてオーストラリアに行ったのは、いまから20年近く前のことだが、オーストラリア英語に慣れるにはしばし時間がかかったものだ。

 この映画では、ひさびさに King's English を聞いた。現在は Qeen's English だが、ジョージ六世当時は 文字通り King's English である。

 まあこれはコトバのあやに近いが、腹から発声する腹式呼吸のアメリカ英語と違って、ノドだけで発声可能な英国の英語は、そもそも明瞭な印象がないのは日本語に似ている。日本語は東アジアの中国語や韓国語と違って、発声に際して腹式呼吸は必要としない。

 英語は文法は簡単だが、発音が難しい
 英語は、母音(vowel)の数が多いので正確に発音するクセをつけておかないと聞き分けることも出来ない。日本語の母音はアエイオウ(a-e-i-o-u)の5つしかないが、英語の場合は明確に区分している。

 子音(consonant)にかんしても、l と r の使い分けはとりわけ日本語人には難しいだけでなく、b と v の使い分けは日本語だけではなくスペイン語にもない。現代語で th のような音をもっている言語は英語くらいである。古代ギリシア語の θ(シータ)がこれに該当するが、この th は気音といって t音に h の呼気が加わるものである。

 現在でこそ、英米の英語だけでなく、ジャパニーズ・イングリッシュも含めて多様な英語があって当然だという風潮になっているが、英語は思ったより簡単ではない、ということは現在でも否定しようのない事実である。


英国王室についての日本人が忘れがちな重要な事実

 英国の現在の王室は、実はドイツ系であるということが、この映画では実は伏線になっている。

 「ピューリタン革命」で共和制となった英国だが、クロムウェルの死後は王政復古が実現、その後さまざまな経緯を経て、1714年にドイツ北部のハノーファー(Hannover)から、ハノーファー選帝侯ゲオルク(Georg)が王として招聘され、グレートブリテン王兼アイルランド王ジョージ(George)一世となった。そのため現王朝はハノーヴァー(Hanover)朝といわれる。

 国民統合のシンボルであるべき国王と王室が、実はドイツ系であるということは平時には大きな問題にはならなかったであろう。斜陽化していたとはいえ大英帝国である。

 しかし、第一次世界大戦ではドイツと戦い、しかもまたヒトラーの台頭によってドイツとの戦いが不可避のものとなってきたとき、ドイツとの有事の関係において、とりわけ国民感情を逆なでしないようにする必要に迫られたという背景があった。

 そういう状況のまっただなかに国王に即位することを余儀なくされ、国民に向けてラジオ越しにスピーチをしなければならなかったジョージ六世の心中に思いをはせる必要があるのだ。

 しかも、第一次大戦で多くの帝国が消えていったことも忘れてはならない。まずロシア帝国、そしてオーストリア=ハンガリー帝国にドイツ帝国。英国王室は、これらの帝国の元首たちとは姻戚関係にあったのだ。これはこの映画を見る際にディテールに気をつけてみているとわかることだ。勘のいい人は、ロシア皇帝であったニコライ二世の肖像画がでてくるのに気がつくことだろう。

 激動の時代、しかも大英帝国が急速に落日にむけて駆け落ちて行く時代であったのだ。
 

アカデミー賞の行方は?

 さてアカデミー賞の行方だが、果たしてどのような結果になるだろうか?

 本日現在では結果はまだわからない。明日2月28日(月)日本時間午前9時半から中継が行われる。

 話題性からいえば、間違いなく『ソーシャルネットワーク』、玄人好みのヒューマンドラマといえば『英国王のスピーチ』だろう。主演賞と助演賞は後者のような気がする。

 いずれも実話(true story)にもとづいたオリジナルなシナリオだが、2000年代の米国の大学生の世界と、1930年代の大英帝国の王室、これはまったく異なる世界である。

 このコントラストが面白い。

 結果が楽しみである。



P.S. 第83回アカデミー賞の結果は・・

 『英国王のスピーチ』が、作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞など 4冠に輝いた。圧勝といえよう。 『ソーシャル・ネットワーク』は、脚色賞・編集賞・作曲賞の 3つ

 昨年のアカデミー賞も、3Dというテクノロジー面での新機軸を導入し、神話的なストーリーでエンターテインント性の高かった『アバター』ではなく、玄人好みの『ハートロッカー』であった。どうやら、同じ傾向が続いているようだ。
 先週末の2月26日から日本では封切られたばかりの『英国王のスピーチ』にとっては、またとないというか、図星というか、興行的にはきわめて強い追い風になる。

 もちろん、『英国王』は、私がこの記事に書いたように、ヒューマンドラマとしてはすばらしい。ぜひ、みなさんも映画館でご覧になることをお薦めしたい。

 (2011年2月28日 記す)






<関連サイト>

『英国王のスピーチ』日本版公式サイト

The Kings Speech Trailer 2010 HD (英語版トレーラー)

Oscar - The official 2011 site for the 83rd Academy Awards(アカデミー賞公式サイト)


<ブログ内関連記事>

書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)・・英国を知るうえで、日本人のために日本語で書かれた必読書

どんな話であれ「自分」を全面的に出したほうが、人はその話に耳を傾けるものだ

I am part of all that I have met (Lord Tennyson) と 「われ以外みな師なり」(吉川英治)
・・ありのままの事実を認める勇気。

映画 『ソーシャル・ネットワーク』 を日本公開初日(2011年1月15日)の初回に見てきた

アッシジのフランチェスコ (3)  リリアーナ・カヴァーニによる
・・イタリアの女流映画監督による『フランチェスコ』。ミッキー・ロークがフランチェスコ役、『英国王のスピーチ』でエリザベス妃を演じたヘレナ・ボナム=カーターがクララ役を演じている

書評 『小泉進次郎の話す力』(佐藤綾子、幻冬舎、2010)-トップに立つ人、人前でしゃべる必要のある人は必読。聞く人をその気にさせる技術とは?

書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!

(2014年1月10日 情報追加)





(2017年5月18日発売の拙著です)




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