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2012年1月18日水曜日

書評 『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』(大泉啓一郎、中公新書、2011)-「新興国」を消費市場としてみる際には、国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!

■新興国の経済をみるには国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!

中国を含めたアジアの「新興国」が世界経済の牽引車となっていることは、ビジネス界だけでなく一般社会でも常識となってひさしい。

だが、生産基地としてではなく、消費市場としてアジアを考えるためには、「新興国」の経済を国全体のGDPという統計数字で見ていたのでは見誤ってしまうのではないか? これが著者の問題意識であり、本書の出発点である。

本書のキーワードは、「メガ都市」と「メガリージョン」である。

メガ都市とは、東アジアの中国でいえば上海のような大都市メガリージョンとはその上海とその周辺に拡がる長江デルタ経済圏のことである。

タイに詳しい著者は、東南アジアではタイのバンコクとその周辺地域を取り上げてくわしく分析している。上海もバンコクも、いずれもすでに「脱工業化」のステージに入っているメガ都市である。

アジアの経済分析を専門とする著者が本書で取り入れたのは、都市社会学を専門とする米国の社会学者リチャード・フロリダの議論だ。

フロリダは、「クリエイティブ・クラス」という概念を打ち出して有名になった学者だが、衛星写真で捉えた夜間の光源の強さと広がりからメガリージョンを割り出した。

アジアでは、東京圏、大阪・名古屋圏、九州北部、広域札幌圏、ソウル・釜山、香港・深セン、上海、台北、広域北京圏、デリー・ラホール、シンガポール、バンコクの12地域あげている。これらはみな「途切れることなく明かりが灯っている地域」である。

基本的に経済地理学の観点からみた議論を展開しているので、本書ではまったく言及がないのだが、メガ都市とは世界文学である村上春樹の小説が翻訳版として読まれている都市であるという定義も可能だろう。

村上春樹が描く都市のライフスタイルは、まさに消費都市としてのメガ都市の風景と重なり合う。本書で考察された経済学的な見方とあわせ考えれば、消費市場としてのメガ都市について考えるヒントになるはずだ。

新興国におけるメガ都市は、いわば巨大な農村地帯という大海に浮かぶ孤島のような存在だ。その意味では、国としてのタイとメガ都市としてのバンコクの関係よりも、同じメガ都市であるバンコクとシンガポール、さらには香港や上海、そして東京や大阪といった関係のほうがリアリティをもつことになる。メガ都市どうしはお互いを意識し合い、競争する関係にある。

本書では、メガ都市とそれを取り囲む膨大な農村との関係、中進国化する新興国の政治問題までマクロな議論を行っているが、メガ都市がメガ都市として存在する都市国家シンガポールのような例外を除いては、いずれの新興国においても考慮のなかに入れておかねばならないことは言うまでもない。シンガポールですら、都市の貧困層問題は避けて通れない。

消費市場としてのメガ都市とメガリージョンを論ずる際には、まずは本書で指摘されておる経済的な状況を押さえておくことが、アジアでのビジネス戦略を考えるための基本的な前提となるだろう。ビジネスパーソン以外にも広く読むことを薦めたい一冊である。






目 次

はじめに
第1章 消費市場の拡大と高まる期待
1. 消費市場へと向かわせる二つの力学
2. アジアの消費市場をどう捉えるか
3. 消費市場はどう広がってゆくのか
第2章 メガ都市の台頭
1. 都市化するアジア
2. 過剰都市化からメガ都市へ
3. アジアの新しい発展メカニズム
第3章 浮上する新しい経済単位-メガリージョン化するアジア
1. 中国経済をどう捉えるか
2. 長江デルタ経済圏の形成
3. 拡大するメガリージョン
4. グローバル・シティへの道 
第4章 成長力は農村まで届くか  
1. 所得格差がどこに向かっているのか
2. 都市と農村の人口ボーナス格差
3. 地方・農村の持続的発展の課題
第5章 アジア新興国の政治不安  
1. 国内の南北問題
2. なぜタイは政治不安に陥ったのか
3. メガリージョン時代の政治学
第6章 アジアの持続的市場拡大の条件-新しい日本の立ち位置1. 激しさを増す資源獲得競争
2. アジア版「成長の限界」を超えて
3. アジアの未来市場としての日本
あとがき
参考文献
索引

著者プロフィール

大泉啓一郎(おおいずみ・けいいちろう)
1963(昭和38)年大阪府生まれ。1986年、京都府立大学農学部卒業、1988年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、京都大学東南アジア研究センターを経て、1990年に三井銀総合研究所(現・株式会社日本総合研究所)入社。現在、調査部環太平洋戦略研究センター主任研究員。東京大学非常勤講師、法政大学非常勤講師。著書に『老いてゆくアジア』(中公新書、2007年、アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

著者による第一作『老いてゆくアジア-繁栄の構図が変わるとき-』(中公新書、2007)は、「人口ボーナス」という概念によって、少子高齢化が進展しているのは日本だけではないことを示してくれた本である。まさに、れわれの盲点をついて蒙を啓いてくれた本であったといえよう。

「人口ボーナス」とは、著者の表現を借りれば、「出生率の低下にともなう生産年齢人口(15~64歳)の人口比率の上昇が、労働投入量の増加と国内貯蓄率の上昇をもたらし、経済成長を促進するという考え方」(上掲書)、である。

つまり、若年人口が豊富にいると、労働集約型の組立製造業においては優位性を発揮するのであり、それが所得の向上と貯蓄率の向上につながるということだ。

これは、高度成長期の日本が体験したことであり、1980年代から90年代にかけての中国やタイが体験したことである。

だが、この「人口ボーナス」が享受できる期間が永遠に続くわけではなく、所得が向上するにつれて、出生率は低下し、労働力の供給が減少していくことになる。これもまた日本が先行して体験していることである。

中国やタイでも、経済成長にともなって、日本を後追いする形で「少子高齢化」が進展し始めると、若年人口が多いという「人口ボーナス」を享受できなくなってきたわけだ。

しかも、日本とくらべて社会保障の充実が進まないまま「高齢化」を迎えつつあることは、先行きの不安材料としてアジアの「中進国」には大きくのしかかっているのである。

しかし、大都市の吸引力が若年人口を引き寄せ、地方には高齢者が残されることをとってみても、大都市とそれ以外の地方農村との格差は歴然としている。同じ国にありながら、ほとんど違う世界を形成していることを直視しないといけないのだ、と。

これが著者にとっての最新作につながる問題意識となったわけだ。

というわけなので、書評では「消費市場としてのアジア」に焦点を絞った書き方をしているが、じつはそのれぞれの「新興国」は経済だけでなく、それに起因する社会的な矛盾も抱えており、これが政治問題化する可能性がつきまとうことを考慮に入れておかなくてはならないのである。

つまりは、所得の再分配にかかわるテーマなのだが、そのためにはより一層、メガ都市が発展してメガリージョンを強化していくことが重要なテーマであると同時に、社会基盤の強化も同時に進めなければならないことを意味する。

経済成長と社会的安定をどう両立させるかという大きなテーマを抱えながら、メガ都市間の競争がさらに激化していくという構図である。

一国の繁栄が永続しないのと同様に、メガ都市であっても繁栄が永続するとはいえないだろう。

メガ都市とメガリージョンでのビジネスを展開することにおいては、社会問題は直接的なイシューではないが、CSR(=コーポレート・ソーシャル・リスポンシビリティ:企業の社会的責任)は意識しておくことが重要であることは言うまでもない。

『老いてゆくアジア-繁栄の構図が変わるとき-』(中公新書、2007)、『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』はともに経済分析の本なので、ビジネスやマネジメントに直接かかわるものではないが、読み方次第では、得るものが多いといえるだろう。





『老いてゆくアジア-繁栄の構図が変わるとき-』 目次
はじめに  少子高齢化の波/「まぼろしのアジア経済」を超えて
第1章 アジアで進む少子高齢化
1. 世界人口とアジア
2. アジアにおける出生率低下の背景
3. 高齢化地域としてのアジア
第2章 経済発展を支えた人口ボーナス
1. 「東アジアの奇跡」はなぜ生じたか
2. 人口ボーナスとは何か
3. アジア各国は人口ボーナスの効果を享受できたか
第3章 ポスト人口ボーナスの衝撃
1. 人口ボーナスから高齢化へ
2. 高齢化による成長要素の変化
3. 中国、ASEAN4の高成長の壁
4. ベビーブーム世代の生産性
5. ベトナムとインドの参入
第4章 アジアの高齢者を誰が養うのか
1. アジアの社会保障制度
2. 社会保障制度構築の課題
3. 開発途上国が直面する困難
第5章 地域福祉と東アジア共同体
1. 福祉国家から福祉社会へ
2. 日本の地域福祉の取り組みと教訓
3. 真の東アジア共同体形成に向けて
あとがき
参考文献
索引


<ブログ内関連記事>

タイのあれこれ 総目次 (1)~(26)+番外編

「メガ都市バンコク」では日本のスマホはまったく目にすることもない-これが「ガラパゴス化」の現状だ! (2012年1月)

書評 『村から工場へ-東南アジア女性の近代化経験-』(平井京之介、NTT出版、2011)-タイ北部の工業団地でのフィールドワークの記録が面白い
・・大都市はすでに「後近代」だが、タイでも農村部では現在も「近代化」が進行中

書評 『赤 vs 黄-タイのアイデンティティ・クライシス-』(ニック・ノスティック、めこん、2012)-分断されたタイの政治状況の臨場感ある現場取材記録
・・「黄色」=バンコク大都市部の支配層と都市中間層(前近代+後近代)と、「赤色」=東北部と北部の農民層(前近代+近代化まっただなか)の対立が反映されていると考えることも可能

「バンコク騒乱」から1周年(2011年5月19日)-書評 『イサーン-目撃したバンコク解放区-』(三留理男、毎日新聞社、2010)

書評 『バンコク燃ゆ-タックシンと「タイ式」民主主義-』(柴田直治、めこん、2010)-「タイ式」民主主義の機能不全と今後の行方

書評 『タイ-中進国の模索-』(末廣 昭、岩波新書、2009)
・・関連書もふくめて、ややくわしくタイの政治経済に言及

(2014年2月1日 情報追加と関連記事再編集)





(2012年7月3日発売の拙著です)








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