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2013年4月13日土曜日

書評『仏教徒 坂本龍馬』(長松清潤、講談社、2012)ー その死によって実現することなく消え去った坂本龍馬の国家構想を仏教を切り口に考える



『仏教徒 坂本龍馬』。 おお、すごいタイトルではないか!

書店の店頭ではじめてその存在を知った本である。

奥付をみたら、2012年8月、まだいまから半年前の出版である。まったく知らなかったのは、拙著『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012年7月)のプロモーションで、この時期に出版された本が視野に入ってなかったのかもしれまない。

さっそくその場で購入を決めた。そして、さっそく読んでみた。

坂本龍馬は仏教徒だったといっても、えっ(!?)という反応か、だからどうした(?)という反応かのどちらかではないだろうか。

倒幕と明治維新への道を拓いた坂本龍馬が、道半ばにして非業の死を遂げたことは知らぬ人はいないだろう。それはドラマや小説でできあがったイメージにほかならない。坂本龍馬にはそれほどいれあげたことのないわたしも、そういった断片的なイメージで坂本龍馬像を自分のなかに構築していた。

本書は、坂本龍馬にほれ込んだ現役の仏教僧侶が書いたものだ。著者もご多分にもれず、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』にはまった人であるらしい。

しかし、それだけなら、たとえ仏教僧であっても、とくにめずらしい存在ではないかもしれない。

違うのは、著者の5代前の先祖が坂本龍馬の同時代人で、海援隊による出版物であるのにかかわらず、一般に知られることなく消されてしまった『閑愁録』(かんしゅうろく)に出合い、大いにインスパイアされて書き写した仏教者であったという偶然である。

その人の名は長松清風(ながまつ・せいふう 1817~1890)。無知ゆえにわたしは知らなかったが、幕末に在家中心の仏教教団をつくりあげた、その後に多く発生した法華系新宗教の先駆者のような人物であった。著者は、その長松清風が立ち上げた本門佛立宗の僧侶なのである。

本書の P.150 から P.155 まで現代語訳とともに収録されている『閑愁録』(かんしゅうろく)の原文は、きわめてロジカル、きわめて簡潔明瞭、きわめて説得力のある文章だ。龍馬存命中に海援隊名義で海援隊が出版した公式文書であり、執筆者がだれであれ坂本龍馬自身が納得していた内容であるのは著者の言うとおりだろう。

その内容は、明治維新直後に吹き荒れた、ファナティック(狂信的)な復古神道とは大違いの、仏教の教えを根本にすえた政治構想なのであった。

独り仏法は、無辺(むへん)之(の)鳥獣 そう木に至るまで済度すべし、何ぞ況(いわん)や、有縁(うえん)之(の)衆生(しゅじょう)に於いをや。然(しかれば)則(すなわち)其(その)旨広し

エリート主義の政治ではなく、一般民衆の声が反映される政治思想の裏付けとなる仏教の教えである。
故に仏法は天竺の仏法とのみ言べからず、乃(すなわち)皇国の仏法なり

『閑愁録』(かんしゅうろく)にあるこの一節が、日蓮上人の『立正安国論』と合致するとつよく感じた長松清風は、坂本龍馬の抱いていた思想のうち、一般衆生を仏教で救うというミッションを終生追い続けることになる。

『閑愁録』(かんしゅうろく)においては、海援隊が活動した長崎で盛んになっていたキリスト教への警戒感が明確にあらわれているが、維新の負け組みであった幕臣や佐幕派の藩士たちの少なからぬ者たちがキリスト教徒になったことを考えれば皮肉なことだ。文明開化という時代のなか、坂本龍馬の近親者や民権運動家も含めてキリスト教徒になった者は少なくない。

また、出身地である土佐藩が薩摩藩と同様、激しい廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の嵐を経験したことを考えると、歴史というものがいかに偶然的な要素によってコースが変えられてゆくものであるかと思わざるをえないものがある。

明治維新とはいったい何であったのか? 
明治維新から疑え! 「維新」などと安易にクチにすべきではない! 

もし坂本龍馬が生き延びて、「王政復古クーデター」を阻止できていれば、明治維新以後の日本は現在とは異なるものになっていた可能性もゼロであったとは言い切れまい。

もちろん、複合的な要因がはたらき、せめぎ合うのが歴史という複雑系である以上、坂本龍馬の構想がそのままそっくり実現することはなかったであろうが。

本書が特筆に値するのは、左翼の立場からではない、仏教者の立場からの明治維新批判、平田復古神道批判、国家神道批判であることだ。オルタナティブな歴史の可能性について論じたものでもある。

「神国日本」という物語をつくり、復古神道のプロモーターとなった平田篤胤(ひらた・あつたね)の評価は現在においても一筋縄ではいかない。多才な文人であったが、一方では古代史や魂の行方にかんしての創作というか捏造など問題もきわめて多い。キリスト教から素材を換骨奪胎したしたことも最近では知られるようになってきている。

著者の見解については、かならずしも同意しないものも多々ある。たとえば、勝海舟については、晩年は限りなくキリスト教に近づいていたという説もあることは指摘しておきたい。また、第7章における著者の持論については、かならずしもしっくりくるきたわけではないことを書いておく。だが、すくなくとも第6章までは読んでみる価値はある

「仏教徒」と「坂本龍馬」という異質にみえる組み合わせも、本書を読み終わった時点では違和感なく納得できるものとなっていることだろう。坂本龍馬のいままで知られていなかった側面に光をあてたことは大いに評価したい。





目 次 

まえがき
第1章 坂本龍馬伝
第2章 海援隊の真価
第3章 龍馬の国家ビジョン
第4章 海援隊蔵板『閑愁録』
第5章 隠された龍馬の思想
第6章 長松清風の『閑愁録』
第7章 仏教ルネサンス
あとがき
参照資料

著者プロフィール  

長松清潤(ながまつ・せいじゅん)
本化院日桜。昭和44年(1969)生まれ。京都出身。本門佛立宗横浜妙深寺・京都由緒寺院長松寺住職。(財)佛立生活文化研究所代表理事。佛立研究所研究員。海外弘通特別委員。立正高校を経て帝京大学で教育学を専攻。大学在学中、プロジェットスキーヤーとして活躍。映画出演、世界選手権出場の他、全日本ジェットスキー学生連盟初代会長。大学卒業後、京都本山宥清寺にて止宿、佛立教育専門学校卒業。海外弘通僧として、イスラエル、米国、インド、スリランカ、シンガポール、イタリア、フランス、ブラジル、韓国と世界を駆ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


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