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2014年3月31日月曜日

書評『やっぱりドルは強い』(中北 徹、朝日新書、2013)ー「アメリカの衰退」という俗論にまどわされないために、「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドルに注目すべし


「アメリカの衰退」が語られるようになってからどれだけたつのだろうか。おそらくその始まりは2001年の「9-11」からだろう。同時多発テロ事件である。

1941年の日本海軍による真珠湾攻撃はあくまでも太平洋上の離島であり、アメリカ本土が直接攻撃されたわけではなかった。その衝撃はアメリカ人のみならず、全世界に与えたのであった。

「9-11」を境に猛烈な反撃が開始されたわけだが、しかしその結果イラクやアフガニスタンで戦費の浪費と人命の損傷は著しく、その他地域、とくに東アジアにおける米軍のプレゼンスが低下し、ときを同じくして中国が急激に増大してきたことなど、軍事面に顕著に見られる「衰退」である。

さらに2008年のリーマンショックで中産階層(ミドルクラス)の崩壊がさらに加速し、アメリカ人の「内向き」志向もまた加速している。外交よりも内政、というわけである。この状況を反映してかオバマ大統領のもとにおいては国際的な軍事介入はめっきり減少してしまった。

だが、ほんとうにアメリカは「衰退」しているのだろうか? この「常識」は疑ってかかったほうがいいのではないだろうか。

こういった「疑問」に、「決済システム」という地味だが、きわめて大きな存在である「見えざるシステム」に着目したのが本書である。


「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドル

本書で説明されていることは、帯に書かれているキャッチコピーに尽きる。

基軸通貨が強い本当の理由とは?すべての通貨はドルなしには取引できない。
金正日のマネーロンダリング失敗 
ドルに抑えこまれた戦前の日本
人民元⇒ドル⇒円のからくり
今後の通貨制度はどうなる
ドルの流れを理解すれば、すべての原因が明らかになる!

そう、米ドル(US Dollar)が国際貿易の決済制度においてもつ「基軸通貨」としての意味を知れば、米ドルが「覇権通貨」であることの意味もわかるはずだ。これがわかれば「覇権国」の意味も理解できるだろう。

「決済通貨」としての米ドルを「基軸通貨」としてもつ米国の最終兵器が「金融制裁」である。「軍事力」を行使しなくても「金融制裁」が大きな効果をもつ。

それは、アメリカが直接からんでいない第三国間の通貨取引も、必ず米ドルを媒介して行われているからだ。それが経済的合理性にかなっているからだ。これが「媒介通貨」としての機能であり、使用されればされるほどネットワーク効果が働いて、それ以外の選択肢がなくなっていく。だから、依然として圧倒的に米ドルが「決済通貨」として使用されているのである。


(「第2章 基軸通貨の本質」(P.59)より)

たとえ、アメリカ経済が「衰退」しているとしても、米ドルがもつ「基軸通貨」としての位置づけは別個の話なのである。

戦前の日本がアメリカの虎の尾を踏んで「金融制裁」によって経済的に窒息し、米ドルを媒介としない「円元パー」という円通貨圏をつくったものの運営に失敗し国民経済が窮乏化したこと。

北朝鮮がマカオにもつ中小銀行の口座をアメリカ政府によって凍結され、「金融制裁」によって締め上げられたこと、これらはみな「媒介通貨」としての米ドルという通貨をもつアメリカのパワーの源泉でもある。

前者の日本は 1930年代の話であるが、後者の北朝鮮の話は 2005年から2007年の話であり、つい最近のことなのだ。前者のケースにおいては最終的に全面戦争になったが、後者のケースにおいてはその気配すらない。北朝鮮による威勢のいい挑発的な言動は、実際面とはイコールではないのである。

アメリカがもつ「金融パワー」は、軍事力に頼らない圧倒的なパワーとして行使されているのだ。本書を読めば、「アメリカ衰退」という俗論にまどわされることもなくなるはずだ。

国際貿易や金融実務にかかわっている人であれば「常識」だと思うのだが、「はじめに」によれば高名な経済学者でも知らない人がいるらしい。ビジネス実務の世界と経済学研究者の世界との乖離(かいり)が顕著にあらわれた分野なのだろう。

本書は、これ以上ないほど懇切丁寧にわかりやすく解説してくれる良書である。ややくどいのが難点だがレクチャーと割り切るべきだろう。著者の説明に従って読み進めれば、国際経済の基本について理解も深まるはずだ。





目 次

はじめに
第1章 世界を震え上がらせるドルの威力
 1. すべての国際取引はドルが媒介する
 2. 北朝鮮・金正日総書記を苦しめた金融制裁
 3. 真珠湾攻撃も金融制裁が引き金だった
 [年表] 北朝鮮のマネーロンダリング問題にまつわる外航交渉
第2章 基軸通貨の本質
 1. クロスボーダー決済の仕組み
 2. 媒介通貨としての米ドルの役割
第3章 米国の「金融権力」の内実
 1. 決済と取引情報の関係
 2. スイスで進行中の「スケープゴート」劇
 3. 国際決済の仕組みとその問題点
 4. 決済リスクと中央銀行の役割)
第4章 基軸通貨国の特性
 1. アメリカの経常収支赤字とファイナンス
 2. IMFの「二枚舌」政策
 3. 基軸通貨国が持つ特権
 4. アメリカでは通貨危機は起きない)
第5章 基軸通貨制度の現状と将来
 1. 米ドルはいかに強いか
 2. ドルに対抗できる通貨はない
 3. 基軸通貨国の経営収支赤字は、本当に問題なのだろうか?
おわりに

著者プロフィール

中北 徹(なかきた・とおる)
1951年生まれ。経済学者。一橋大学経済学部卒業後、外務省に入省。ケンブリッジ大学経済学大学院修了後、東洋大学経済学部教授。専門は国際経済学、金融論。日本銀行アドバイザー、官邸の諮問機関であるアジア・ゲートウェイ戦略会議で座長代理を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

北朝鮮制裁・デルタ銀行問題の謎 (田中 宇、2007年7月3日)

ビットコイン、最大の“ライバル”の実像「リップル」は仮想通貨の本命か (日経ビジネスオンライン、2014年4月22日)
・・グローバル化して世界中を自由に動くマネーというイメージが一般人のみならず経済人にもあるようだが、実際はマネーにも「国境」があることをうまく説明してくれているので引用しておこう。これが「現実」なのだ。

現在の決済プロトコルが「国ごとに異なっている」というのはどういう意味か。

ロング氏: 現在の国際間決済の業界構造を見ると、そこには(ACH=自動決済センターや国際的な送金情報網である「スイフト」、銀行、決済代行業者など)複数の異なるプレーヤーが関わり、多層構造ができあがっている。しかも、インフラに相当するクリアリング(清算)やセトルメント(決済)といった機能がグローバルレベルで統一されておらず、決済システムは事実上、国や地域ごとにクローズドになっている。

ウクライナ危機で反ドル政策を加速させたいロシア-あらかじめ準備されていた制裁対抗措置に見えるプーチン大統領のしたたかな狙い(JBPress、2014年5月20日)
・・「その後、4月末の制裁の拡大局面では、クレジットカードのビザとマスターカードが制裁対象のSMPバンクなど2行が発行するカードの決済を止める措置も含まれた。 ロシアの一介の商業銀行が国際的な資金決済ができないというのはにわかに信じがたいが、実は米国にはそれを可能にする金融権力を持っている。今回のウクライナに関する一連の騒動で、米国の弱体化が強調されるものの、特に国際金融の世界における米国の地位はいまだに堅牢なのだ。 具体的に言うと、現金を除くすべてのドル決済はニューヨーク連邦銀行が管理人となって在ニューヨークの銀行間で決済される仕組みとなっている」


国際緊急経済権限法(IEEPA)
・・「国際緊急経済権限法(若しくは、国際非常時経済権限法 International Emergency Economic Powers Act 略称 IEEPA)は、1977年10月28日より施行されたアメリカ合衆国の法律。合衆国法典第50編第35章§§1701-1707により規定されている。安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大な脅威に対し、非常事態宣言後、金融制裁にて、その脅威に対処する。具体的には、攻撃を企む外国の組織もしくは外国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為替取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止などである」(wikipedia日本語版)。

・・ギリシアの経済学者で政治家のヤニス・ヴァルファキスは、中ロの政治指導者も資産はドルで保有しており、中国人民元が米ドルに取って代わろうとなどと考えるはずがないと指摘している。

(2023年10月4日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

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・・戦前の日本がアメリカの虎の尾を踏んでアメリカの「金融制裁」によって経済的に窒息し、米ドルを媒介としない「円元パー」という円通貨圏をつくったものの運営に失敗し国民経済が窮乏化したこと、そしてこの延長線上に大東亜戦争開戦があったこと

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(2014年4月22日 情報追加)


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