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2014年8月11日月曜日

書評『武士とはなにか ー 中世の王権を読み解く』(本郷和人、角川ソフィア文庫、2013)ー 日本史の枠を超えた知的刺激の一冊


この本は面白い。本文がおもしろいだけでなく、「あとがき」と「文庫版あとがき」がまた衝撃的だ。そこまで日本史、いや歴史全般が人気がなくなってしまっているのか、と。

歴史好きな日本人は多い。だが歴史学が好きな日本人はそう多くないようだ。

大学受験のための無機質な年号暗記が歴史嫌いを増やしているのであろうし、なによりも古代からはじまって現代に近づいていくという叙述スタイルが面白くないのは当然だ。たいていの高校では近代にはいったくらいで時間切れとなる。

「いま、ここに」生きている自分にとって、歴史がいったいぜんたいなんの意味があるのか? そう思う人が少なくないのは不思議でもなんでもない。

現代からはじまって過去にさかのぼる姿勢でなければ、たいていの人間にとって歴史は関心のないものでありつづけることだろう。

日本人が好きなのは歴史小説や歴史ドラマであって、歴史そのものではない。わたしの恩師の阿部謹也先生は、「歴史小説は舞台を過去に設定した現代小説」であると言いきっている。だからこそ、歴史書ではなく、歴史小説を興味深く読む人が多いのである、と。

つまり面白いということが必要なのである。歴史事実のトリビアルなディテールばかり追っているのでは歴史オタクとしては満足であろう。だが、オタクではないふつうの人にとってはどうでもいいような事実の羅列が面白いわけがない。

歴史は流れがわかればそれで十分ではないか、とわたしは思っている。

そんなわたしにとって、『武士とはなにか-中世の王権を読み解く-』は、じつに面白い本であった。

中世史家の本郷和人氏の本を読むのはこれがはじめてなのだが、問題関心のあり方にわたしと共通するものを感じたためでもある。

本書の内容については出版社によるもので言い尽くされているので、それを引用しておけば十分だろう。

新しい日本史世史! 戦士から統治者としての王へ 中世は「武士の時代」だった! 覇権をかけた武士たちの闘い、そして武家政権としての将軍権力の実態とは? 源平争乱から戦国時代を経て、徳川幕府完成まで――。貨幣経済の浸透、海の民の活躍、一神教の衝撃、東西の衝突などの刺激的な視点から、武士が「戦士から統治者としての王」となったプロセスを追う。先入観や従来の教科書的な史観を排し、その時代の「実情」から、権力の変遷を鮮やかに読み解く、新しい日本史世史。(*太字ゴチックは引用者=さとう)

基本的に「武士から王へ」というストーリーを基軸に据えているが、本郷氏のいう「王」とは、実在していない作業仮説のようなものだ。だが、この「王」への方向を想定することで、さまざまなことが見えてくる。

「自立」と「自律」。王としての「君臨」と「統治」。私はいま、この二つの要素を以て王権を定義し、それに基づいて日本の中世史を探訪したいと考えている。(P.39)(*太字ゴチックは引用者=さとう)

支配のあり方をこのように定義すると、日本史の枠組みを超えて、ビジネスとマネジメントに示唆するものも少なくない。


戦国時代末期における「天下統一」 vs 「一神教」  

「貨幣経済の浸透、海の民の活躍、東西の衝突などの刺激的な視点」が展開されているが、こういったテーマはすでに日本中世史の網野善彦氏が開拓してきた分野なので、慣れ親しんでいる人も少なくないだろう。

なかでも、わたしの知的好奇心をもっともそそるのが、最終章の第7章で展開されている戦国時代末期の一向宗(=浄土真宗)についての取り上げ方だ。

第一次グローバリゼーションのなか、日本に伝来したキリスト教にきわめて近似した一向宗は、限りなく「一神教」に近づいていたのである。阿弥陀如来に一点集中した一向宗の「伝播力」は、まさにキリスト教に匹敵するものであった。

こういう発想は「近代主義」だとして斬り捨てる人がいるが、わたしはかならずしもそうは考えない。メッセージの明快さとアピール力において、一神教のほうが多神教よりもコミュニケーション密度とスピードが勝っているのは、当然といえば当然だ。信仰の対象を阿弥陀如来のみに一点集中させた一向宗が、容易に地域を越えて拡大したのはそのためだ。ただし、これは宗教としての優劣を論じているのではない。

著者の本郷氏は、最終章においても「二項対立」の枠組みを使用し、組織構造としての「ツリー構造」と「リゾーム構造」で、「一神教」的な統合原理を必要とした「主従構造」のあり方の変化を鮮やかに対比してみせる。

(ツリー構造とリゾーム構造 本書P.200より)

「ツリー構造」とは、家臣の一人の主君への忠誠がタテに階層的に構築されていく、一人の「王」を頂点としたピラミッド型の階層構造による組織である。官僚制の組織構造はこのタイプである。

「リゾーム構造」とは、複数の主人に服従を誓う、ゆるい構造のネットワーク型の組織を形成する。リゾームとは地下茎のことで、1980年代後半にはよく耳にしたコトバだ。著者が1960年代生まれであることが反映しているのであろう。現在ならネットワーク構造というべきか。

前者の「ツリー型組織」は、鎌倉幕府を成立させた源頼朝と御家人の関係、後者の「リゾーム型組織」は、一人の強力なリーダーを生み出さない惣村(そうそん)における「一味同心」の関係である。

鎌倉幕府の成立以降、日本の武家社会においては「ツリー構造」を基本としてきたが、戦国時代の混乱のなかで天下統一を狙う武将たちは、現世の絶対者である「王」が頂点に位置し、それ以外の人間はその王の支配のもとにおかれると同時に、慈悲深き王の庇護のもとに入る体制を志向するようになる。

一方、一向宗やキリスト教などの「一神教」世界においては、現世ではない別世界の絶対者のもとでの平等が前提となる。つまり現世においては現世の絶対者である「王」に帰属する必要は必ずしもなくなる。

だからこそ、天下統一構想の前に立ちはだかる「一神教」的な宗教勢力に対して恐怖を感じた織田信長は、だからこそ日本の仏教勢力の牙城であった比叡山を焼き討ちし皆殺しにしたのであり、豊臣秀吉は石山本願寺にたてこもる一向宗を武力でたたきつぶしたのであり、徳川将軍はキリスト教を禁圧し徹底的に取り締まったのである。

これらはみな、現世における「王」の支配を盤石にするためであった。まさにマキャヴェリズムそのものである。

こういう組織論とリーダーのあり方をからめた解説は、ビジネスパーソンにとっても興味深いはずだ。


ビジネスパーソンにとっても意味あるファクトベースの思考方法

とくに日本史という分野は、戦前の皇国史観だけでなく、戦後もまた唯物史観によって毒されてきた分野である。これは「封建制」というターム一つとっても言えることだ。

あまりにも理念先行で、自分たちが設定した枠組みの解釈にあわせた事象だけ拾い上げるという態度は、ファクトベースの現実主義とはまったくあい異なるものだ。

「~であるべき」というゾレン(Sollen)ではなく、「~である」というザイン(Sein)の歴史を標榜する著者、史観からではなく事実から出発するという姿勢。あくまでもファクトベースでの発想は、日本史好きの枠を超えて、ビジネスパーソンにとって意味ある思考方法であるといえる。

その意味でも、本郷和人氏の日本史は面白い。賛否両輪があるだろうが、食わず嫌いはもったいない。






目 次
はじめに
第1章 中世の王権
 1. 権門体制論
 2. 東国国家論と二つの王権論
 3. 王権は「自立」する
 4. 戦国大名というモデル
 5. 王権は「自律」する
第2章 実情(ザイン)と当為(ゾルレン)
 1. 当知行ということ
 2. 実力主義 
 3. 「上から」と「内から」
 4. 武家王権の成立
第3章 武門の覇者から為政者へ
 1. 下文と下知状
 2. 統治への覚醒 
 3. 直訴と奉書
 4. 王権、第三の定義
第4章 土地と貨幣
 1. 血か家か
 2. 貨幣の流入と商品経済の成立
 3. 「もの」への執着
 4. 徳政令と鎌倉幕府の自壊
第5章 東と西
 1. 海の武士道
 2. 切断と接合
 3. 一つの王権へ
 4. 1392年、東の切断
 5. 1600年、東西の激突
第6章 顕密仏教と新しい仏教
 1. 鎮護国家
 2. 圏密体制と統治
 3. やさしい仏教と統治
 4. 武家の仏教
第7章 一向宗、一神教、あるいは唯一の王
 1. 在地領地と農民
 2. タテかヨコか
 3. 一向宗と一神教 4. 王権の収斂-中世の終焉
おわりに
あとがき
文庫版 あとがき-これからの私の方向性をめぐって

著者プロフィール
本郷和人(ほんごう・かずと)1960年、東京都生まれ。東京大学文学部・同大学院で日本中世史を学ぶ。専攻は中世政治史と古文書学。東京大学史料編纂所教授。『大日本史料』第五編の編纂にあたる。主著に『天皇はなぜ万世一系なのか』(文春新書)、『天皇はなぜ生き残ったか』(新潮新書)など多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


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(2014年8月19日 情報追加)


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