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2015年1月28日水曜日

書評『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、村井章子訳、文藝春秋、2015)-キーワードは「近代国家」志向と組織の「近代性」にある


「国民国家」が融解し液状化つつある冷戦後、すなわち「近代」終焉後の世界のなか、「国家」としての自立を志向する「イスラーム国」の本質とはなにかについて多面的に考察した本である。

すでにこのブログでも、「イスラーム国」登場の意味について考えるために-2015年1月に出版された日本人の池内恵氏とイタリア人のナポリオーニ氏の著作を読む と題した記事で取り上げているのだが、ナポレオーニ氏の手になる本書は、よりわたしの問題関心に近いので、さらにくわしく取り上げてみたいと考えた次第だ。

その問題関心とは、中東の情勢のみならず、500年にわたってつづいてきた西欧中心の「近代」という時代が終わり、つぎの時代にむけての「大転換期」をどう見るかということと、このような時代環境のなかで、あらたに「国家」建設を目指すということが何を意味し、今後の国際情勢にどういう影響を与えていくのかという問題関心である。イスラーム過激派の思想そのものへの関心よりも、こちらのほうがわたしにとっては大きい。

日本語版のタイトルは、『イスラム国家-テロリストが国家をつくる時-』となっているが、原題は The Islamist Phoenix - The Islamic State and the Redrawing of the Middle East, Seven Stories Press, 2014 である。直訳すれば、『イスラーム主義の不死鳥-イスラーム国と中東地図の描き直し-』となるが、日本語版のタイトルのほうが、むしろ内容を要約しているといってよいかもしれない。

いずれにせよ、2014年に「イスラーム国」がみずからを「カリフ制のもとにおける国家」と宣言し、そう自称している理由をきちんと捉えなくては、事の本質を見誤るということだ。英語圏の政策担当者やメディアが ISIS や ISIL といった略語を使用して、けっして Islamic State(=イスラーム国)とよぶことを避けているのは、デファクトに存在しながらも「国家」とは見なさないという姿勢であり、著者の姿勢はそれとは一線を画している。

その点、日本のマスコミは「イスラム国」という固有名詞を使用している点においては、英米圏のメディアよりもマシであるといえるかもしれない。ISIS(アイシス)や ISIL(アイシル) といった英語の略語は、聴き取りにくいし発音もしにくいという事情もあるのだろう。

1955年生まれの著者は、もともとフェミニストであったが、英米で教育をうけたファイナンスの専門家で、テロリストの資金調達の解明から踏み込んだテロ問題の政策アドバイザーでもあるローマ生まれのイタリア人という立ち位置。イタリアはかつて1960年代の終わりから1980年代にかけて「赤い旅団」による極左テロの嵐が吹き荒れた国である。

じつは、幼なじみが「赤い旅団」のテロリストであったことがのちにわかり、その本人からのリクエストで拘置所で面会を繰り返すようになって気づいたことが、著者が資金調達の観点からテロリズムを研究するキッカケになったのだという。これは著者自身が TED Talk で英語で語っているのだが、テロリストとの会話内容が国際金融関係者との会話内容と酷似していることに気がついたのだという。資金調達という観点からみると、「テロ活動はビジネス」である、と。



「イスラーム国」は「規律」と「純化」を徹底する本質的に「近代的」な存在

本書によれば、イスラーム国が経済的に自立できたのは、中東のイラク情勢とシリア情勢の激動といった背景があるだけでなく、冷戦後の「多極化」という状況も大いに預かっているという。シリアとイラクという「国民国家」崩壊で生じた、ホッブス的な無政府状態ともいうべき政治的真空状態を巧みに利用したのである。

冷戦時代は米ソの「代理戦争」だったものが、冷戦後に進展したグローバリゼーションという多極化時代においては敵と味方が不明瞭な複雑な状況となり、結果として「イスラーム国」は援助をつまみ食いし、さらに原油密輸や身代金ビジネスなどで自前の資金調達を行いながら、特定のスポンサーをもたずに経済的独立を勝ち得たのである、と。

「イスラーム国」以前にも「国家」樹立を目指したテロ組織は、アラファト率いるPLO(=パレスチナ解放機構)があったが、支援国からの豊富な援助で腐敗が蔓延しているのが実態だという。それに対して、「イスラーム国」は腐敗防止のため兵士は薄給で(・・これはメディア報道とは異なる)、しかも戦闘員には厳しい「規律」を重視しているという。

さらには、サラフィー主義による原点回帰という「純化」や「浄化」を志向する組織であることを視野に入れれば、いわゆる清濁併せのむ「帝国」ではなく、民族と宗教によって「純化」した「近代国家」を志向していることが見てとれる。大英帝国の「負の遺産」である、宗派と民族の寄せ集めである「人工国家イラク」と対比せざるをえない。

最新のインターネットテクノロジーやメディア戦略を実行するという「合理性」だけではなく、組織自体が本質的に「近代的」なのである。「非合理的」に見える理想を「合理的」な手段でもって実現しようとしているのである。「純化」や「規律」といえば、まさに「近代」そのものではないか! 

現象としては、領土を確保し領域を拡大するという戦国時代の「国盗り物語」(・・司馬遼太郎の小説のタイトル)的な印象を受けるのだが、「西洋列強」がフレームワークをつくった第一次世界大戦後の、オスマン・トルコ帝国崩壊にともなう中東における国際秩序を打破するというかれらの主張が、経済的にも思想的にも裏付けのある行動であることに注目しなくてはならないのだ。

アメリカという「遠い敵」にテロ攻撃を行い、しかも構成員が外人集団であったビン・ラディンのアルカーイダとは違い、「イスラーム国」は、イラクとシリアという地域から生まれ、地域の問題に敏感なのである、という。反対派を追放したり抹殺するが、それなりに「善政」を敷いて支配下のスンニー派の人々の支持を得ているといわれる。

さらに、イラクのフセイン政権での治安担当者たちが大量に合流しているらしい。外国人をリクルートすることばかりに焦点があたっているが、外人比率は小さい。「イスラーム国」は外人部隊ではないのである。

領土占領によって民族国家を建設するという志向性は、まさに著者が指摘するようにイスラエル建国を想起させるものがある。イスラエルの場合は、遠い過去を現代に再現するという点において、「カリフ制再興」という目標を掲げてそれを実現しようとした点に共通性が見られるのである。おそらく、著者はムスリムでもユダヤ教徒でもないようなので、このような大胆な発言を可能としているのだろう。「イスラーム国」自身も、イスラエルをとくに敵対視していないようだ。敵はシーア派である。

さらにイスラエル建国だけでなく、遠い過去である紀元前の「ローマ建国」にまで言及しているのは、著者がローマ生まれのイタリア人ならではである。被征服者となったサヴィニー族の女性たちにかんする指摘が興味深い。「イスラーム国」による住民支配を理解するカギの一つにもなる。

さきに「戦国時代」のようだと書いたが、著者は日本については言及はしていないものの、日本人としては、「近代化」の開始となった1868年の明治維新には「復古革命」という異なる側面もあり、その思想的背景には、外国人排除をスローガンとした「攘夷」という、「神の国」化による「浄化」という要素が濃厚に存在したことも想起しておいたほうがよいのではないだろうか。「聖戦」という表現も大東亜戦争において使用されたという過去を想起する必要がある。

「イスラーム国」を支える思想的背景のサラフィー主義は、もともとは「近代化=西欧化」を肯定的に捉えたアラブ世界近代化の思想だが、西欧による植民地化によって変貌した。この事実は、「近代国家」樹立を志向する「イスラーム国」について考えるうえで興味深い。

(著者によるテロリストの資金調達ネットワーク分析書 未邦訳)


「イスラーム国」は既存の「国際秩序」における承認を求めていない

米英を中心とする「有志連合」が「イスラーム国」に対して空爆を繰り返しており、それなりに「成果」がでていると米国政府は発表している。

その真偽については判断しかねるが、かつて「大本営発表」という悪しき過去をもつ日本人としては、どうも納得しがたいものを感じることも否定できない。オバマ大統領は、「イスラーム国」の壊滅を目ざしていると公言しているのだが、そう簡単なミッションではないだろう。モグラ叩きに終わってしまう可能性もある。

もし仮に「壊滅」できないのなら、「抱き込む」しかないのかもしれない。つまり既存の国際秩序のなかに取り込んで穏健化を図るということだ。中国共産党を既存の IMF体制に組み込むのと似たロジックである。だが、「イスラーム国家」が将来的に国際的に承認される日が来る可能性があるのかどうか、現時点ではまったく不透明だ。「イスラーム国」自身、日本人人質を殺害するなど、残忍なテロ行為をやめようとする気配もない。

「イスラーム国」は、一方的に「カリフ制度のもとの国家」を宣言したが、「革命政権」ではないので、国際的な承認を求めているわけではない。これがじつにいやっかいな点である。

「王道楽土」を目指してあたらに建国された「満洲国」ですら、結果として英米の支持は獲得できなかったものの、最終的には日本とバチカンを含めた23ヶ国から国際的な承認を得ることに成功していることと比べてみたらいい。満洲国が置かれていた当時の中国情勢は「軍閥」が割拠していた時代であり、現在の中東地域に似ている。

国際的な「国家承認」について考えるには、「イスラーム国」が主張する「カリフ制」と統合シンボルである「カリフ」について、もっと知る必要がある。だが、日本国もその重要な構成国である、近代西欧がつくった既存の国際秩序とは異なる原理にもとづくものであり、「常識」の理解を超えるものがある。「常識」になれきったアタマには、体感的に理解するのは、なかなかむずかしい。

本書が時事的なテーマをあつかいながらも厚みのある内容となっているのは、著者には専門としてのファイナンスだけでなく、西欧の哲学や思想のバックグラウンドが「教養」として身についているからである。さらにいえば、西欧自身をも「相対化」できる視点の持ち主だからでもある。

ヨーロッパの知識階層出身者ならではの、読みでのある本となっているのはそのためだ。じつに面白い本である。日本人読者は、自分なりの読みを行って補足すべきであろう。






目 次

この集団の名称について
用語集
はじめに 中東の地図を塗り替える (Introduction:  Redrawing of the Middle East)
 タリバンやアルカイダとは違う
 世界の多極化を熟知しその感激をつく
 多くのスンニ派の人々にとっては頼もしい政治運動と映っている
 彼らは道路を補修し、食糧配給所をつくり、電力を供給した
 他のテロ組織から学ぶ
 彼らが犯罪者でなくなる時
序章 「決算報告書」を持つテロ組織 (The New Breed of terrorism?: テロリズムの新種?) 
 「決算報告書」を持つテロ組織
 冷戦下のテロ組織と何が違うか?
第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?? (From al Zarqawi to al Baghdadi: ザルカウィからバグダーディへ) 
 テロリストは国家をつくれるか?
 アル・ザルカウィの伝説
 バグダディの登場
 バグダッド・ベルト
 写真を残さない男
 アルカイダとの路線対立
第2章 中東バトルロワイヤル (Reheasals for the Caliphate: カリフ制のリハーサル) 
 パレスチナ解放戦線という先行例
 一夜にして敵味方が逆転する今日の代理戦争
 代理戦争の政治的矛盾をつく
 人質を転売する市場
 テロをビジネス化し経済的自立を果たす
 シリアにおける最初の偽装国家の建設
 制圧地域内では予防接種も行われるようになる
第3章 イスラエル建国と何が違うのか? (The Paradox of the New Rome: 「新ローマ」のパラドックス)
 ユダヤ人がイスラエルを建国したように
 イスラエル建国とイラン建国
 戦士たちを制服地域の女性と結婚させる
 「イスラム国」が国際社会で認知される日は来るか?
第4章 スーパーテロリストの捏造 (The Islamist Phoenix: イスラーム主義者の不死鳥) 
 「ニューヨークでまた会おう」
 スーパーテロリストの捏造
 予言は公言することで実現する
 欧米は重大な動きを見落としていた
 カリフ制国家の訴求力
 あえて近代的な運営をする
第5章 建国というジハー ド(The Modern Jihad: 「近代」のジハード) 
 欧米の民主主義的価値観を越えるもの
 大ジハードと小ジハード
 「建国」という新しい概念をジハードに与えた
 「アルカイダは一つの組織にすぎないが、われわれは国家だ」
第6章 もともとは近代化をめざす思想だった (Radical Salafism: 過激なサラフィー主義) 
 サラフィー主義は、もともとはアラブの近代化をめざす理想だった
 植民地化によって過激な反欧米思想に変質
第7章 モンゴルに侵略された歴史を利用する (The New Mongols: 新モンゴル) 
 なぜ虐殺をするのか
 タクフィール、背教者宣言
 13世紀のモンゴル人によるイラク侵攻
 欧米は敵を誤っていた
 本質は宗教戦争ではなく、現実的な政治戦争
第8章 国家たらんとする意志 (Contemporary Pre-Modern Wars: 現代の「前近代的」戦争) 
 崩壊過程の国民国家の血を吸って
 なぜシリアとイラクなのか
 第三次世界大戦の性格
 「イスラム国」の戦いと他の武装集団の戦いは違う
 近代国家の再定義
終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功 (Epilogue: The Arab Spring and The Islamic State) 
 欧米の軍事介入の行方
 第三の道はあるか
謝辞
ソースノート


著者プロフィール
ロレッタ・ナポリオーニ(Loretta Napoleoni)
1955年ローマ生まれ。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で国際関係と経済学の修士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで哲学修士号を取得。ハンガリー国営銀行に就職、通貨フォリントの兌換通貨化を達成、そのスキームは、後にルーブルの兌換通貨化にも使われる。北欧諸国政府の対テロリズムのコンサルタントを務め、各国の元首脳が理事をつとめる民主主義のための国際組織「Club de Madrid」の対テロファイナンス会議の議長も務める。邦訳書に『ならず者の経済学』(徳間書房、2008)と『マオノミクス-なぜ中国経済が自由主義を凌駕できるのか-』(原書房、2012)がある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに補足)。

翻訳者プロフィール
村井章子(むらい・あきこ)
翻訳家。主な訳書にアダム・スミス『道徳感情論』(共訳)、フリードマン『資本主義と自由』、ガルブレイス『大暴落1929』(以上、日経BPクラシックス)、ラインハート&ロゴフ『国家は破綻する』、エセル『怒れ! 憤れ! 』、『コンテナ物語』(以上、日経BP),カーネマン『ファスト&スロー』(早川書房)、『リーン・イン』(日本経済新聞出版社)ほか。


PS 「イスラーム国」(or 「イスラム国」)という呼称について

NHKは2015年2月13日から「イスラム国」の呼称を変更することを発表した。

過激派組織ISについて

2月13日NHKは過激派組織について、これまで組織が名乗っている「イスラミックステート」を日本語に訳して「イスラム国」とお伝えしてきましたが、この組織が国家であると受け止められないようにするとともに、イスラム教についての誤解が生まれないように13日夜から原則として「過激派組織IS=イスラミックステート」とお伝えすることにしました。(*ふとjゴチックは引用者=さとう)

 「過激派組織IS=イスラミックステート」というのはえらく長い。わたしは「自称イスラム国」でいいのではないかと思うのだが・・・ (2015年2月14日 記す)



<関連サイト>

Loretta Napoleoni (wikipedia英語版)

ロレッタ・ナポレオニ: 入り組んだテロの経済 (TEDトーク、2009年7月 日本語字幕)
・・「ロレッタ・ナポレオニは、テロリズムへの生涯の関心を呼び起こすきっかけとなった、イタリアの秘密主義で知られるテロ組織「赤い旅団」と話すという絶好のチャンスを詳述します。 彼女はテロ組織の入り組んだ経済学を調査し、その舞台裏で起こったマネーロンダリングと米国愛国者法の驚くべき関係を明らかにします」(TEDより)

Loretta Napoleoni: The Islamist Phoenix (動画 音声:英語 The Agenda with Steve Paikin, 2014年12月12日)

Loretta Napoleoni explains Islamic State's blueprint for economic success (動画 音声:英語 2014年10月3日 Australian Broadcasting Corporation 放送)

Terror Inc.: Tracing the Dollars Behind the Terror Network (動画 音声:英語 2008年? オレゴン大学における講演)


イスラム国現象が巻き起こす“負の連鎖”の仕組み-シリアの混乱が世界に広がる可能性 (菅原 出、日経ビジネスオンライン、2015年1月6日)

イスラム国 恐怖政治の実態-中東研究センターの保坂修司氏に聞く-(時事ドットコム、2014年)

イスラム国ではなく「ダーイシュ」、 弱点を突いて解体せよ 元バアス党員と元イラク軍人たちが夢想した世界とは (松本 太、JBPress、2015年2月6日)
・・サラフィー・ジハード主義者と元バアス党員や元イラク軍人という二項対立を抱える「イスラーム国」

イスラム国の「真の狙い」など存在しない 錯綜した人質事件の情報(前篇)(黒井文太郎、JBPress、2015年2月3日)
・・「今回の人質事件は、これまでイスラム国が何度も繰り返してきた「外国人誘拐ビジネス」の延長にすぎない・・(中略)・・たとえ敵国でも、解放するか殺害するかは、完全に身代金支払いの有無による」

イスラム国は日本を特に重視しているわけではない 錯綜した人質事件の情報(中篇)(黒井文太郎、JBPress、2015年2月10日)

コラム:イスラム国が人質焼殺映像で得たもの (Peter Van Buren、ロイター、2015年2月12日)
・・「イスラム国は日本人の人質2人とヨルダン軍パイロットを殺害し、メッセージをインターネット上で拡散し、それによる戦略的利益を得た。・・(中略)・・イスラム国はこれが「主義の戦い」であることを理解している。主義や思想は爆撃でダメージを受けることがないことも分かっている。そのような戦いでは、本質的に勝ち負けは存在しない。ただ壮大な戦いに苦しむだけだ。・・(中略)・・そもそもイスラム国への対応は依然として米国の手に委ねられているが、米国は自身の中東でのプレゼンスがまさに戦いの悪化を招いていることを理解しているようには見えない。」

地上軍をISIL掃討に投入せざるを得ない アメリカの“経済的”事情 カネをドブに捨ててきた有志連合軍のISIL空爆 (北村 淳、JBPress、2015年2月19日)
・・中途半端な陸上部隊派遣では「勝利」はおぼつかない

IS人質殺害事件:日本国内評論を総括する 日本は間違いなく標的の1つ 一神教の研究(その9)(宮家邦彦、JBPress、2015年3月3日)

世界は今こそ西欧的発想からの脱却が必要だ 英米メディアが注目するインド人随筆家パンカジ・ミシュラ氏に聞く(石黒千賀子、日経ビジネスオンライン、2015年3月20日)
・・「ミシュラ: それを如実に物語っているのが今の中東情勢ではないでしょうか。今の中東は、まさに欧州帝国主義の産物です。その産物が今、崩壊しつつあるということです。 ご存じのように、1916年に英仏露の3カ国がトルコ帝国領の分割を定めたサイクス-ピコ協定を結び、これら中東の地は欧州帝国主義か独裁者によってしか統治できないようにしてしまいました。この時点で、中東の枠組みはいずれかの段階で崩壊を迎えることは必然でした。・・(中略)・・ 欧州は過去にもこうした既存の秩序がすべて崩壊し、様々な狂信的な発想が台頭してくるという事態を何度もくぐり抜けてきた経験があります。30年戦争や宗教改革などはその一例です。長きにわたり、社会を結び付けていたものがばらばらになっていき、凄まじい暴力が発生し、崩れながら何十年もの混沌の時代に突入していく。これと似たことが今、中東で起きている。 帝国主義以降、西欧が築いてきた古い国民国家という政治的枠組みそのものが限界を迎えているということです」

「イスラーム国」の拡散が止まらない理由 (日本エネルギー経済研究所 中東研究センター主任研究員 吉岡明子、日経BizGate、2015年5月25日)

コラム:「イスラム国」との戦争はどう終わるのか (ロイター、2015年6月23日)
・・「つまり、イスラム国との戦争がどう終わるかという質問は、実際のところ、戦争後のイラクとシリアがどんな姿になるのかという問いを意味する。・・(中略)・・ 非国家組織と国家の間には、非常に大きな差がある。国家は国際的財政援助を求めたり、武器を購入したり、他国政府からの諜報支援を期待することもできる。イスラム国は武装組織としては資金力があるかもしれないが、すでに限界を感じているはずだ。」

アングル:空爆で収入減、イスラム国が次に狙う為替操作益 (ロイター、2016年2月24日)
・・ 「イラク北部モスルを支配する過激派組織「イスラム国」戦闘員は、金融拠点に有志連合の爆撃機から攻撃を受けるなか、住民から金を搾り取るため米ドルとイラク・ディナールの為替レートを操作している。」

バグダディはどちらが捕らえる? IS追い詰めた米露特殊部隊 パルミラ奪回の裏でも暗躍 (ウェッジ、2016年4月4日)
・・いよいよ本丸が落ちるか?

欧米にテロリストが大量帰還へ、IS壊滅後の恐るべき現実 (佐々木伸、ウェッジ、2016年8月1日)
・・「米連邦捜査局(FBI)のコミー長官によって発せられた。長官によると、米主導の有志国連合は最終的にISを壊滅することになるが、IS戦闘員のすべてを殺害、もしくは捕虜にすることはできず、多数がシリアから逃亡し、欧州に、そして米国にも舞戻って来る可能性が高い。 その結果、欧米でのテロの発生はISの壊滅の前と比べて減るどころか、増加するという最悪の状況になりかねない、という。シリアやイラクでのISの壊滅が欧米の治安の安定をもたらすことにはならないということだ。 」

各地で敗退、見え始めた終焉、追い詰められたIS、テロ激化か(佐々木伸、ウェッジ、 2016年8月15日)
・・「拠のシリアでは、トルコとの戦略的な交通の要衝、北部のマンジュビが陥落、第2の拠点化を狙った北アフリカ・リビアのシルトも制圧された。アフガニスタンでもIS指導者が米空爆で死亡した。追い詰められたISが欧州やアジアでテロを激化させる恐れが再び強まってきた。」

イラク、モスル奪回作戦を開始、ISは全員自爆覚悟(佐々木伸、ウェッジ、 2016年10月17日)
・・「オバマ大統領は少なくともイラクだけはIS撃退の道筋を付けて新大統領に引き継ぎたいと考えており、自分の残り少ない任期中にモスルを取り戻したいという思惑があるのは事実だろう。 だが「イラクで学んだことは物事が思った通りにはいかないということだ」(元米当局者)。奪回作戦がイラク軍にとっても修羅場になる危険性は大きく、オバマ大統領の思惑通りに進むかは予断を許さない。」


ISの拠点陥落すれど、新たに生まれる“新首都”(佐々木伸、ウェッジ、2017年6月29日)
・・「過激派組織「イスラム国」(IS)のイラクの拠点、モスルの奪還が目前に迫ってきた。しかしモスルがイラク軍に制圧されても問題は解決したわけではない。急がれるのはモスルの治安の回復と破壊された市の再建だが、宗派対立や利権争いが待ち構えており、戦後処理を誤れば、ISの復活という悪夢が現実になりかねない。」 7月11日時点でモスルハほぼ制圧され、つぎはシリア国内のラッカが焦点になる。されど・・・

「イスラーム国」とは何だったのか? 消滅まで囁かれるその現状(髙岡豊・中東調査会上席研究員、ダイヤモンドオンライン、2017年8月18日)

イスラム国が事実上の崩壊 シリア北部の「首都」ラッカ解放 (産経新聞、2017年10月18日)
・・「イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が「首都」と称してきたシリア北部ラッカについて、AP通信は17日、米軍の支援を受けるシリア民主軍(SDF)報道官の話として、「戦闘は終結し、ラッカを解放した」と伝えた。「首都」の陥落でISが標榜してきた「疑似国家」は事実上、崩壊した。」

ひとまず、これで「自称イスラーム国」は消滅した。だが、いまだ完全に掃討戦が行われたわけではないし、イスラーム国を受け継ぐ思想運動団体は無限に増殖することが考えられる。

(2015年2月11日・13日・21日、3月6日・20日、6月6日、6月24日、2016年2月24日、4月4日、8月3日・15日、10月19日、2017年7月11日、8月18日、10月18日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

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・・ナポリオーニ氏の世界的ベストセラーは、すでに2008年にナポ「レ」オーニ名義で日本で翻訳出版されている。「イスラム国」もまた「ならず者」の一つである


イスラーム文明の黄金時代

書評 『失われた歴史-イスラームの科学・思想・芸術が近代文明をつくった-』(マイケル・ハミルトン・モーガン、北沢方邦訳、平凡社、2010)-「文明の衝突」論とは一線を画す一般読者向けの歴史物語
・・十字軍が実行されたヨーロパ中世において、黄金時代のイスラーム文明と比較してヨーロッパは辺境の後進地帯に過ぎなかった


イラクとレバント(=東地中海)

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)

書評 『中東新秩序の形成-「アラブの春」を超えて-』(山内昌之、NHKブックス、2012)-チュニジアにはじまった「革命」の意味を中東世界のなかに位置づける

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書評 『巨象インドの憂鬱-赤の回廊と宗教テロル-』(武藤友治、出帆新社、2010)-複雑きわまりないインドを、インドが抱える内政・外交上の諸問題から考察

『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)を手がかりに「シー・シェパード」について考えてみる


極左テロ・極右テロ-日本・ドイツ・イタリア

マンガ 『レッド 1969~1972』(山本直樹、講談社、2007~2014年現在継続中)で読む、挫折期の「運動体組織」における「個と組織」のコンフリクト
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・・ドイツの極左テロを描いた映画。ドイツも、イタリアも、日本も、戦後の1960年代後半に「極左テロの嵐が吹き荒れた

書評 『裁判官と歴史家』(カルロ・ギンズブルク、上村忠男・堤康徳訳、ちくま学芸文庫、2012)-初期近代の「異端審問」の元史料を読み込んできた歴史家よる比較論
・・イタリア新左翼の活動家であった著者の友人がマコ込まれた裁判弁護のために書かれた本

マンガ 『テロルの系譜-日本暗殺史-』(かわぐち かいじ、青弓社、1992)-日本近現代史をテロルという一点に絞って描き切った1970年台前半の傑作劇画

沢木耕太郎の傑作ノンフィクション 『テロルの決算』 と 『危機の宰相』 で「1960年」という転換点を読む

「ユートピア」は挫折する運命にある-「未来」に魅力なく、「過去」も美化できない時代を生きるということ


■米英中心の国際メディアがもつ意味

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある


16~17世紀のヨーロッパにおける宗教改革という「戦国時代」

「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場-」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年4月15日)-銅版画の革新者で時代の記録者の作品で17世紀という激動の初期近代を読む

映画 『王妃マルゴ』(フランス・イタリア・ドイツ、1994)-「サン・バルテルミの虐殺」(1572年)前後の「宗教戦争」時代のフランスを描いた歴史ドラマ

書評 『武士とはなにか-中世の王権を読み解く-』(本郷和人、角川ソフィア文庫、2013)-日本史の枠を超えた知的刺激の一冊
・・「第一次グローバリゼーションのなか、日本に伝来したキリスト教にきわめて近似した一向宗は、限りなく「一神教」に近づいていたのである・・(中略)・・メッセージの明快さとアピール力において、一神教のほうが多神教よりもコミュニケーション密度とスピードが勝っているのは、当然といえば当然だ。信仰の対象を阿弥陀如来のみに一点集中させた一向宗が、容易に地域を越えて拡大したのはそのためだ」


「近代」の意味について日本近現代史に即して考える

『近代の超克ー世紀末日本の「明日」を問う-』(矢野暢、光文社カッパサイエンス、1994)を読み直す-出版から20年後のいま、日本人は「近代」と「近代化」の意味をどこまで理解しているといえるのだろうか?

『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)二部作で、「戦前・戦中」と「戦後」を連続したものと捉える
・・戦前の日本は「神国」のもと「聖戦」を戦った末に敗れ去ったのであったが、「近代国家」としての日本は「近代性」と「神話性」を両輪とする体制であった

「神やぶれたまふ」-日米戦争の本質は「宗教戦争」でもあったとする敗戦後の折口信夫の深い反省を考えてみる

(2015年2月8日、2015年2月11日 情報追加)



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